淫獣捜査 隷辱の魔

【2】 手掛かり

 それから彼女から連絡があったのは一週間後、ちょうど俺が出張先での仕事も一段落し、自宅であるボロアパートに戻ってきた時だった。
 すぐに会いたい、その言葉に不謹慎と思いながらも俺は嬉しなってしまう。
 時間が深夜近くだったのもあり、俺は翌日に会う約束をすると待ち合わせ場所として自分のアパート近くの喫茶店を教えた。
 翌日、俺は待ち合わせ時間よりもかなり早くに目的の喫茶店へと到着していた。
 店の奥の目立たない席に座ると、ブレンドコーヒーを注文して待つこととする。
 幼い頃から憧れていた幼馴染であり、兄貴の嫁となった涼子さんと2人っきりで会う……そう意識すると妙に緊張してきた。
 落ち着かない気持ちを少しでも落ち着かせようと、俺は煙草を咥えると火をつけた。



 几帳面な彼女らしく約束時間ちょうどに涼子さんはやってきた。
 目立たないグレーのジャケットとスラックスを着込んできた彼女であったが、その下にある芸術的な曲線を醸し出すプロポーションと、キリリと引き締まった中に人妻特有の艶やかさをもった美貌を隠すことが出来ていなかった。
 入り口が開き入ってくると、その美貌に店内の男どもは目が釘付けになる。背筋を伸ばし肩まである髪をなびかせ颯爽と歩く姿を多数の視線が追い、その美女と待ち合わせしていたのが俺とわかると、その視線は嫉妬と羨望の視線へと変わり俺に降り注いだ。

「ちょっと、待たせてしまったみたいね」
「いや、時間通りだよ。俺もちょっと前に来たところだよ」

 そういう俺を見ながら、彼女はクスッと笑う。

「ふふふ、相変わらず嘘が下手ね」
「……えっ?」

 慌てて彼女の顔を見ると、テーブルの上に両手で頬杖を付いて、まるで子供のいたずらを見つけた母親のように微笑みながら、目線を灰皿へと向ける。

「あぁ、なるほど………バレバレだね」

 彼女の視線の先にある灰皿には、たいして吸われてない煙草が何本も揉み消されていた。
 昔から彼女はそうだった。兄貴に比べあまり出来の良くなかった俺は、言いたいことを口にできない事が多かった。
 でも、兄貴の同級生であり俺たち兄弟の幼馴染でもあった彼女は、そんな俺の様子にすぐに気が付いて、何気ない素振りで擁護してくれた。だから俺にとっては彼女は、今でも頭が上がらない存在だった。

「ところで、呼んでくれたって事は……何かわかったの?」
「えぇ、ちょっとだけどね。彼はどうやら、最近、日本に進出してきた海外の犯罪組織を調べていたみたいなの」

 彼女は顔を突き出すと、俺の耳元に声を潜めて語りだす。

「独自に開発した新種の麻薬と大量の資金を武器に、ここ最近、勢力を伸ばしてきた組織らしいんだけど、警察の方でも実態は良く分かってないらしいの。ことごとく警察は裏をかかれてて捜査が進んでないらしいわ。それを密かに内偵をしていた彼は、警察内部に組織の協力者がいるらしい事を突き止めた……って所までは、彼が雇っていた情報屋などから集めた情報でわかったわ」

 周囲を警戒しながら報告してくれる。その内容の重さより、近づき、目の前にある彼女の美貌と、話すたびに耳元に吹きかかる吐息に俺はドキドキしてしまっていた。

「そ、そんな組織があるなんて……涼子さん、危険だよ!!」
「わかってるわ。無茶をしないって。いざとなったら昔の上司を頼るしね。こう見えても署内では人気があって、今でもいろいろとコネを持ってるのよ」

 心配そうに見つめる俺に、彼女は微笑みながらウィンクをしておちゃらけて見せる。

「それに、こうして貴方を呼んだのも、約束通り貴方の力を借りたかったからでもあるのよ」
「お、俺の力? 涼子さんの何か役に立てるなら、喜んで協力するよ!!」

 ふざけた雰囲気から一転して真摯な眼差しに戻った彼女は、俺の返事に満足そうに頷くと、手元のバックからUSBメモリーを取り出しテーブルの上へと置いた。

「……これは?」
「彼が……私にも内緒で密かに銀行の貸金庫を借りていたの。今さっき、そこから取ってきた物なの」

 見たところ、USBメモリ自体はいたってシンプルな市販製だった。

「えーと、ほら、私って……機械音痴じゃない。それに貴方は、そっち系の仕事しているから、詳しいでしょ?」

 急に汗をかきながら、しどろもどろになる彼女の様子に、俺は我慢できずにクスクスと笑ってしまう。
 そうなのだ、彼女は昔から機械が苦手で、ボタンが複数付いている機械を前にすると、よく泣きそうな顔をしていたものだった。そうなる度に機械いじりやコンピュータが好きだった俺は、彼女に一生懸命に教えていた。

「あーッ! もーぅ!! ちょっと、笑いすぎじゃないッ!? 今では携帯ぐらいは……一人で使えるようになったんだからね!!」
「あぁ、ごめんごめん! ぷっ……くっくくく……」

 そんな俺の様子に、彼女は耳まで真っ赤に染め上げて抗議してくる。
 いつもはお姉さん然として、しっかりして見える彼女の妙に子供ぽい仕草に、俺はますます笑いが止まらなくなってしまった。





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