淫獣捜査 隷辱の魔罠

【11】 出迎え

「……そんなんじゃ、ダメね、すぐバレてしまうわ」

 涼子さんを引き連れて車まで戻った俺を、駿河さんはため息をついて出迎えた。

「エスコートという言葉が、良くなかったかしらねぇ……はい、やり直しッ!!」

 どうやら、涼子さんを引き連れてた俺の方に問題があったらしい。「もっと荒々しく」「もっと無遠慮に」と指導しながら、駿河さんは俺に何度もリテイクを繰り返す。

――地下駐車場に、俺の革靴と、涼子さんのヒールの足音、そして足枷の鎖の音が鳴り響く……
 
 他に人はいないとはいえ、ほぼ全裸の女性を引き連れて地下駐車場を歩く。
 その異常な状況に当初は恐るおそる歩いてた俺だったが、何度も歩かされているうちに次第に慣れていくようで、少し怖い気がした。
 
「うーん、まぁ……いいでしょう」

 ようやく駿河さんの許しが出たのは、どれくらいの時間が経過してだっただろうか。普通に歩いてた俺はまだしも、無理な姿勢で歩かされていた涼子さんは、その場でガックリと座り込んでしまった。
 そんな彼女を俺は抱きかかえ、大型バンの後部座席に横向きにして寝かしてあげると、そっと頭部を俺の膝に乗せあげ膝枕をしてあげる。
 呼吸を乱し、拘束された胸を大きく上下させながら、それでも根を上げなかった涼子さん……そんな彼女を見ていたら、とても愛おしく感じ、気が付いたら彼女の頭を優しく撫でていた。
 
「さて、予定外に時間を浪費してしまった事だし、移動しながら説明するわね」

 そう言って、駿河さんも乗り込んでくると、俺と涼子さんの向かいの席に座り、バンのスライドドアを閉じる。
 そして、車がゆっくり走り出すと、彼女は俺にこれからの事を詳細に話し始めた。
 
 紫堂の主催する秘密クラブは不定期で開催され、開催場所も時々で変わること。そのクラブには、招待された特別な人物しか入れないこと。特別な人物とは、もちろん彼の組織に有益だと判断された人物、または、その為に懐柔しようという人物。そんな彼らに金や麻薬だけでなく、彼らのさまざまな嗜好や性的欲求を満たせる場として、提供されているらしい。
 クラブの中では、男性は皆、身元を隠すためにマスクを着用して参加する。その為、参加者は皆、平等であり、身元の詮索、誇示はご法度であるとの事だ。
 今回、そんなクラブに潜り込み、紫堂が参加しているのを確認し、駿河さんたちにそれを発信機で報せるのが、俺と涼子さんの使命だった。報せを受けた駿河さんと部下が踏み込み、紫堂を確保する……そういう手筈になっている。
 
「そんな訳で、わかっている関係者の資料に目を通しておいてね。もちろん紫堂の最終確認は、涼子ちゃんにしてもらうにしても、目星をつけるぐらいは、君にもやって貰えると助かるかしら」

 そう言って、ずっしりと重いファイルの束が渡された。
 
「それから、これが発信機ね。一見、高級ライターに見えるけど、火力調節を最低にして着火ボタンを押すと、電波を発信するから」
「へーっ、分かりました」
「間違っても、火力調節を最大にしないようにね。バーナー並みの火力があるからね」

 金色のライターを物珍しそうに弄ってた俺は、慌てて火力レバーの向きを確認する。
 
「わかっていると思うけど、紫堂の確保が最優先事項よ。だけど、もし危険だと判断したら、無理せずに発信機を使いなさい、わかったわねッ」 
「は、はいッ」
 
 それまで険しい表情をしていた駿河さんだったが、その時ばかりは表情を緩め、優しく語りかけてきた。
 
 
 
 とあるビルの地下駐車場。
 そこに、俺はタキシード姿で目元をマスクで隠し、拘束具に未だ戒められた涼子さんを従え立っていた。
 駿河さんの話では、ここにクラブからの使者が迎えにくる手筈になっているらしい。
 彼女自身は、俺たちを降ろすと「無理はしないように」と何度も釘を刺して、この場を離れ、今頃は気付かれない場所から、俺達を監視しているだろう。
 
「……来たみたいだよ、涼子さん」
 
 人気も無く、薄暗い地下駐車場が、一瞬、強い光で照らされ、徐々にその光が俺達の方へと近づいてきた。
 俺は緊張で早鐘のように鼓動する胸元を押さえると、口内に溜まった唾液を飲み込む。そして、ゆっくりと深呼吸して、必死に気持ちを落ち着かせる。
 そんな俺の前に、黒塗りの大型リムジンが流れるような動作で音も無く停止する。
 
「お迎えにあがりました」

 後部ドアがゆっくりと開き、中から一人の女性が降り立つと、俺に深々と頭を下げる。
 歳は20代後半だろうか、黒ストライプのスーツスカートに身を固め、シャギーを入れた肩まである髪、首元にはスカーフを巻き、ノンフレームの眼鏡を掛けた知的な雰囲気の美女だった。
 
「貴方様のホストを勤めさせていただきます」
「あっ……よ、よろしく……」

 サラリーマンの性か、つい頭を下げ挨拶されると反射的にこちらも挨拶をしてしまった。
 そんな俺の姿に彼女は一瞬、キョトンとしていたが、すぐにクスリっと微笑む。
 
「いえ、お気使いなく。どうか私の事はナナとお呼び下さい。さぁ、どうぞ」
 
 彼女は、そう言って涼子さんのリードを受け取ると、優雅な動作で俺の搭乗促した。
 内心ドキドキしながら広々とした車内に乗り込んだ俺は最後部座席へと腰をおろす。それを見届けると、ナナと名乗った女性も涼子さんを連れて乗り込んで後部ドアを閉じた。

「それでは、お連れいたしますね……魅惑のクラブへと……」

 そして、俺と涼子さんを乗せたリムジンは、音も無く静かに走り出した。
 
 
 


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