淫獣捜査 隷辱の魔罠

【64】 イク

 イクと名乗る女性に案内されて、俺は施設の奥へと向かっていた。
 俺の手には首輪の鎖を握られ、玲央奈が一歩遅れてついてきている。それを視界の隅で確認した。
 奴隷衣装の玲央奈は後ろ手に拘束された身でありながら、高いピンヒールでフカフカの絨毯の上を危なげもなく歩いている。
 運動神経だけでなくバランス感覚も優れているのだろう。胸を張り、堂々と歩く姿には気品すら感じられていた。

(なにをやっても様になるな……)

 トップアイドルにして、新鋭のIT企業の社長を母親に持つだけはある。日々の生活で培われた品格というものは滲み出るものなんだろう。にわか仕込みの俺とは雲泥の差だった。
 それは当然のことで、どうこう言うつもりもない。劣等感すら感じず、ただ感心してしまうだけだった。
 そんな俺の視線に気付いたらしく、ニコリと微笑みを返してくるのだった。
 だが、平然と見えても不安を抱いているのを俺はすでに知っていた。
そして、これから向かうのは淫獣の棲みかのさらに深部なのだ。

――表面を見ているだけではダメだ

 それを涼子さんや玲央奈が身をもって教えてくれていた。
 強気にみえる彼女らでも、その内側には不安や恐怖などの感情を抱えている。それは人として当たり前のことで、それを表面に出さないようにしているだけなのだと俺は理解しているつもりでいても実感ができていなかった。

――それが、今夜の体験でようやく実感でた。

 実感してみると、欲望に忠実に従うというタギシさんの考え方もより興味深くなる。
 もし、涼子さんがそれを実践したらどうなるのか、普段は抑え込んでいる彼女の想いを知りたいと思ってしまうのは俺からすると当然の流れだった。
 だが、その一方で知ることへの恐怖もあった。彼女のマスクを取った際に、兄貴と勘違いされたことを思い出してしまう。

(あのとき俺は……)

 心の闇から沸きだしたドロリとした昏く冷たい感情。あれを抑えられなかった場合を考えると背筋が寒くなる。

(次に同じようなことがあったなら、止められるだろうか……いかんな、それは今、考えることじゃないな)

 思考を打ち切ると玲央奈への返答の代わりにに、ポケットに入れておいたリモコンを操作する。その途端、少女は可愛らしい声をあげてビクッと身体を震わせた。
 玲央奈の股間に当てがったローターには遠隔操作できる機能があった。俺はそれを動作させたのだ。
 微弱な振動とはいえ、未開発の肉体には充分すぎる刺激だろう。すぐに振動は停止させたものの、上気した柔肌にシットリと汗をかいて、激しく息を乱していた。
 玲央奈が少しムッとした表情で恨めがましく睨んでくる。それを俺は演技ではなく心の底から愉しんでいた。
 自然とつり上がる口端を玲央奈から隠すように前を向く。その先には、白いボディコンドレスに身を包んだイクさんの後ろ姿があった。
 褐色の肌に彫りの深いエキゾチックな顔立ちの美女だった。
 ややタレ目の瞳を潤ませて、ピンクのリップが塗られた厚めの唇から悩ましい吐息をはく様がエロチックだった。気だるげな口調で囁かれるだけでも、妖しい気分にさせられそうだった。

(ナナさんとはいろんな意味でタイプが違うな……まるで全身から濃厚なフェロモンを発散しているかのようだ……)

 素肌が透けて見えそうな薄い布地。それをはち切れんばかりのグラマラスなボディは、肉感的というのに相応しい身体で、その迫力には圧倒される。
 今もモンローウォークで歩かれるたびにドレスか溢れそうな巨乳が弾み、腰まで深く入れられたスリットが褐色の腰を露出させて、あと少しで見えそうな秘部が男のチラリズムを刺激していた。
 彼女の進路先にいた会員たちが目を奪われて、次々と激しく欲情した表情を浮かべていく。
 そういう俺も目の前で揺れる大きな桃尻から目を離せなくなっていた。
 それに加えて彼女の残り香が、うしろを歩く俺の方まで漂ってきていた。豊潤な果実のような甘い香りに心地よい気分に浸り、もっと嗅ぎたいとすら思ってしまう。

(あぁ、あの大きなお尻を抱えて、後ろから思う存分に犯したら気持ち良いだろうな……)

 すでに今夜だけでも何度も射精しているというのに、股間はまたも痛いほどに勃起していた。まるで発情した犬のように息を乱した俺は、今にも襲いかからんばかりまで激しく欲情していた。

「うふふ……お望みでしたら、この場で犯して下さって構いませんわよ」

 いつのまにかイクさんが足を止めて、こちらを見ていた。
 愉快そうに目を細めて蠱惑と呼ぶに相応しい妖しい笑みを浮かべている。ゆっくりと差し出しされた手に誘われるままに、俺は前へと踏み出そうとしていた。
 だが、それを止めるものがいた。

――ジャラリ……

 握っていた鎖によって俺の歩みは止められ、腕がガクンと後ろへ引かれる。

「――ご主人様ッ」

 よく通る美声が俺の脳裏に響き、意識を覆うピンク色の靄を切り払った。
 ハッと我にかえった俺は、まるで白昼夢でも見ていたかのようにハッキリとしない頭を振る。すると、こちらを見ているイクさんに気付く。

「あらあら、もうお目覚めですか……せっかく可愛らしい奴隷さんの目の前で、ご主人様を頂こうかと思いましたのに……ホント、残念ですわね」

 クスクスと笑うイクさんの様子から、俺はなにかをされていたのだろう。だが、彼女はそれを詳しく説明する気は無いようだった。

「タギシ様より、案内ついでに誘惑してみろよと言われたのですが……うふふ、なるほどねぇ」

 意味ありげにニマニマと笑う姿に、今なら嫌悪感を感じられる。
 だが、先程までの俺はそんな表情すらも魅力的に感じていただろう。彼女の動作のひとつひとつを目で追いかけ、全てに欲情させられているかのようだった。

(やはり、ナナさんとは違うな……)

 ナナさんにも心の内側に入り込まれるような感覚はあった。心を見透かされたようにドキッとさせられることもあった。
 だが、仮に彼女に踊らされているとしても、そこには自分の意志が介在していた。最後に決めるのは自分であり、そこに不快感はなかった。
 それに比べてイクさんは、ズカズカと心の中に上がりこんだうえで、俺の意思を無視して勝手に行動を決めさせている。
 まるで催眠術にかけられて詐偽にあったような……いや、真面目に暗示にかけられていたのかもしれない。

――だから正直にいって、酷く気分が悪かった。

 その憤りが態度に出ていたのだろう。イクさんは降参とばかりに両手を上げてみせた。

「ご安心くださいな、もういたしませんわよ。タギシ様からもチャンスは一度きりと厳命されておりますしね」

 それだけ言うとクルリと身を翻す。そのまま、この件はこれで終わりとばかりに歩きだしてしまう。
 その切り替わりの早さに、抜き放った俺の憤りは置き去りにされた形になった。
 だが、近づいてきた玲央奈が心配そうに見上げているのに気付き、その感情を鞘におさめることにした。



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