ボディ・スナッチャー

【2】選抜セミナー

 狭く平地の少ない孤島にある学園は、その建造物のほとんどを地下に造られていた。
 主に5つの施設から構成されており、それぞれ繋がれた連絡通路を生徒や職員は自由に行き来ができる。
 だが、理事長である佐渡島管轄の研究施設だけは別だ。大学施設から伸びる1ルートのみで繋がれていて、専用のゲートは厳重に管理されていた。
 そのゲートの前にジャージ姿の智奈が立つと、ゆっくりと厚い扉が開かれていく。その先に続く通路に行き先を示すように次々と照明が点灯していった。
 人の気配のない寒々しい通路が目の前に続く。意を決して脚を踏み入れた智奈は、ガイドに従うように先へと進んでいった。

(優奈……)

 実は妹から話を聞く前から、智奈は強化セミナーの事を知っていた。
 智奈と時同じくして編入してきたゼミ仲間がいたのだが、その彼女が四週間前に強化セミナーのメンバーに選ばれていたからだ。
 外の大学では男遊びが過ぎて何度も刺されそうになって逃げ込んできたと、どこまで冗談かわからない事をいう美女だったが、大雑把だが前向きで明るい性格を智奈は気に入っていた。
 だが、優奈と入れ替わるように戻って来た彼女はどこか変だった。それまでのような派手な言動は控えられ、男が好きそうな露出の高い服も着なくなった。
 それどころか、以前はこの島に男がいないのを暇さえあればボヤいていたはずなのに、逆に男に対して嫌悪の表情を浮かべるのだ。
 その変わりように智奈は驚きを隠せず、同時に選抜セミナーを受けている妹の身を心配する。それからは少しでも情報を得ようと調べまわり、注意深く周囲も観察していたのだ。
 当初はお嬢様学校なのか、同じような雰囲気の人間ばかり揃っていると思っていた。だが、それらの人が友人同様にある反応を示すのに気が付く。
 
(男性の話をすると、それまでの優しげな笑顔が嘘のように嫌悪で顔を歪ませる……まるで、あの時の理事長のように……)

 初めて会った時の理事長は、常に優しげな笑顔を浮かべていた。だが智奈たちに母親の話はするものの、父親の事には少しも触れはしない。不思議に思い話を振った瞬間に浮かんだ表情、その嫌悪に歪んだ顔を智奈は今でも忘れられなかった。
 そうして考えている間に問題の研究施設へと辿り着く。そこには智奈を出迎えるように二人の女性がいた。

「お待ちしておりました」

 双子なのだろう、深々と頭を下げる二人は同じ顔をしている。学園内で見かけた事のない顔だが、それよりも智奈はその服装が気になった。
 漆黒のボディスーツを着ていたのだ。まるで素肌を黒く塗り潰したかのようなスーツは、細かな肉の起伏も浮き出させていて、よく見れば硬く尖った乳首まで認識できる。

(……あれ?)

 その乳首の形の違和感を感じた。まるで異物が付いてるかのように左右に突起があるのだ。
 だが、にこやかな笑みを浮かべる二人の視線に気付くと、慌てて目を反らす智奈であった。

「こちらにお越しいただいた方々には、計測用のスーツを着ていただいております」
「こちらのロッカーにご用意してありますので、お着替えください」

 彼女らに促されるままにロッカーの前に立つ。
 そこには彼女らが着ていたようなボディスーツが用意されていた。

「これって……」

 手にしたスーツは飴色をしているものの、反対側の手が透けてみえる。

「計測の邪魔になりますので、下着は脱いで着用ください」

 戸惑う智奈に、女性たちが告げる。
 笑顔のまま背後に立たれるプレッシャーに、躊躇していた智奈も諦めて、手にしたスーツへと着替えはじめた。
 衣服を全て脱ぎ、背面に開かれたスリットから脚を入れていく。サラサラとした絹のような滑らかな触り心地で、すんなりと身を入れることが出来た。
 不思議なことに指先など細かい部分まで智奈のサイズにピッタリだ。もちろん、そんな採寸をした記憶もなく、少し気味悪く思ってしまう。

「閉めさせていただきますね」

 背後から手が伸びて、スリットのファスナーを引き上げられていく。
 更にコネクターの付いた銀のリングが、スーツの上から首へと填められる。

「少しピリッとしますからね」
「……うッ」

 カチャリとロックのかかる音がしたと思うと、首筋に電流が流れたような僅かな痛みが走る。それと共にスーツ全体が収縮をして智奈の全身を締め付けた。
 それによってスーツと肌との間に隙間がなくなり、豊かな乳房ひとつひとつを包み込むよう肌に吸い付いてくる。
 ロッカーの扉にある姿見の鏡で確認すると、表面に回路図のようなパターンが刻まれているものの、見た目は全裸とそう変わらない。
 双乳の乳輪や股間の黒い繁みもしっかり見え、肉丘の割れ目の形状まで認識できる卑猥さに、流石の智奈も羞恥心で顔を赤らめてしまうのだった。
 だが、似たような姿をしている二人の女性は淡々とした様子で、首と同様の銀のリングを智奈のスーツへと次々と装着していった。

――カチャリッ……カチャリッ……

 手首、足首と装着されるたびにピリリと全身に刺激が走り、そのたびにスーツが収縮して身体を締め付けてくる。最後には息苦しさを覚えるほどになっていた。

「すぐに慣れますから、我慢してください」
「それでは、理事長がお待ちですので案内します」

 彼女らの先導で先へと進み、両脇が厚いガラスに覆われた通路らしき場所にでた。
 曇りガラスの向こうには、人影らしきものがいくつも見える。

「ここは?」
「こちらは調整室です。セミナー参加の方々が、理事長の決めたスケジュールに従い調整を受けている最中です」
「……調整?」

 説明を受けながら智奈は、どうしても違和感を拭えない。
 話の内容もそうだが、淡々と話す双子の雰囲気や施設全体に漂う空気にもだ。まるで自動制御の製造工場のようで、息が詰まりそうな空気が充満していたからだ。
 そのまま通路を抜けると、今度は広々とした真っ白な部屋に辿りつく。なにも置かれてない寒々しい部屋の中央に、理事長でもある佐渡島 百合子が立っていた。
 彼女もまた深紅のボディスーツを身に付けており、その上から白衣を纏った姿であった。

「いらっしゃい、待っていたわ」

 佐渡島は、ポケットに手を入れたまま出迎える。その顔には柔和な笑みを浮かべているのだが、智奈にはこの施設同様にその笑顔に温かさを微塵も感じられなかった。
 改めて佐渡島という人物を観察する。
 智奈たちの母親と同年代のはずなのだが、三十路と言われれも納得しそうな容姿で、肌の瑞々しさなどは二十代でも通用しそうだった。
 体型も同様に崩れてはおらず、ボディスーツの上から綺麗なボディラインがうかがえる。
 だが智奈にはそれらが、なぜか作り物めいて感じられてしまう。
 唯一、その瞳だけは別だ。熱を帯び、ネットリとした視線を智奈の肢体に絡みつけてくる。

「いったい、貴女はここで何をしているの? それに妹は……優奈は、どこ?」

 反射的に沸きおこる嫌悪感に、つい声を荒らげてしまう。
 それに気を悪くするどころか佐渡島は、益々笑みを深めていく。

「あぁ、やっぱり貴女の方が由奈にソックリね」

 真っ赤なルージュを引いた唇を舐めあげ、目を爛々と輝かせる。その狂喜じみた様子に、智奈は思わず後退る。
 だが、背後から伸びた四本の腕が肩と腕を掴んで抑え込んできた。

「な、なにを……」
「そんなに怯えなくても大丈夫よ。そうね、何をしているのか……ふふ、私だけの理想郷つくりかしらね」

 佐渡島は、まるで何かに憑りつかれたように熱く語りだす。

「貴女のお母さん……由奈と私はパートナーだったの。あぁ、科学者とプライベートの両方よ。彼女、普段は勝気な癖にベッドの中で責め立てるとアンアン啼いて可愛かったわ。お陰でサド気にも目覚めてしまって、エスカレートしていっちゃったけど……ふふ、彼女以上の奴隷ちゃんには、まだ出会えていないわ」
「な、なにを馬鹿言って……そんなはず……あるわけ……」

 佐渡島の言葉を、鼻で笑おうとする智奈。
 突然、足元に映し出された映像によって、それは中断させられた。