催淫染脳支配

【2】 急変した親友

 潤には親友と呼べる幼馴染みの浦木 莉乃(うらき りの)がいた。
 クラスは違うが同じ女学園の同学年に在籍している。活発で体育会系な潤とは対照的に、大人しい性格の文科系で、暇さえあれば読書している、そんな少女だった。
 母親同士も幼馴染みというのもあり、昔から家族ぐるみの付き合いをしていた。それは莉乃の父親が病気で亡くなると、より深いものとなった。
 外資系のキャリアウーマンだった莉乃の母親は、多忙な人だった。
 一年中のほとんどを世界中飛び回っているから日本にいること自体が少ない。そんなだから莉乃が幼い時は、ほぼ壬生屋家で預かりぱなっしだった。
 一人っ子の浦木家と違い、壬生屋家は子供四人に加えて祖父母も同居する大所帯で、潤はその長女だった。
 普段から賑やかな一家だが、最近は五人目が産まれるとあって更に騒がしい家族だが、全員が莉乃を家族のように接する。
 今でも、ひとり寂しく自宅にいる莉乃を心配して、大量の手料理と共に潤や弟妹を送り込んでは泊まり込ませているほどであった。
 そんな莉乃だが、一年生の後半から陰湿なイジメを受けていたらしい。その時期の潤は、空手部の創設から大会出場の準備やらと大忙しで幼馴染みの変化に気付けなかった。だから、莉乃はひとりで思い悩んでいたのだ。
 そして、その末に戸陰のカウンセリングを受けることにした。

――そう、戸陰にイジメの相談をした女生徒というのは、浦木 莉乃のことだった。

 相談を受けた戸陰は、イジメに関わる者ひとりひとりから詳しく話を聞いたという。そして、迅速にイジメ問題を解決したのは事実だった。

――だが、その話には続きがあった。

 莉乃は、どちらかといえば人見知りして内に籠りやすい性格だった。だが、カウンセリングを受けてからは、活発で社交的な性格になっていた。
 イメージチェンジだといって、それまで伸ばしていた髪を切り、ソバージュまでかけ、私服も露出の多い派手な服装を好むようなっていた。
 そんな変化をみせた莉乃に、イジメを行っていた連中が怯えた様子で付き従っていた。その主従逆転したような光景にクラスメートたちは唖然させられた。
 その後も莉乃の変化は続いた。苦手だった運動や勉強でも好成績を出し続け、学校行事では率先してリーダーシップを発揮していった。
 今ではクラスの中心にいるのは、イジメをしていたグループではなく莉乃となっていた。

――だが、潤は知っていた。

 ふたりの時は、今までと変わりないように見えた莉乃だが、時折、同性でもドキッとさせられるような妖艶な笑みを垣間見せた。
 体つきも妙に女らしくなっていて、大人びた下着を着用した姿が艶かしいのだった。
 親友の急激な変化に潤は戸惑っていた。その原因を知るために、部活の隙間を縫っては密かに莉乃の行動を観察してみたのだ。
 すると、今でも莉乃が戸陰のいるカウンセリング室を定期的に訪れている事がわかった。
 それだけでなく、放課後に戸陰の車で何処かへと出かけて、深夜になっても帰ってこない日々が続いていた。

――だったら、今度はちゃんと確かめなくっちゃ……

 潤は親友がイジメを受けていた事実に気付けず、知ったのは戸陰が解決した後だった。そのことが悔しくて堪らず、なにも出来なかった自分が赦せなかったのだ。
 だから、ふたりが同意して交際しているのなら問題がないし、それどころか応援するつもりでもいた。
 だが、もしなにか強要されての関係であるのなら、今度こそ莉乃を助けたいと強く思っていた。

――今度は失敗しないッ

 決心をした潤は下校間際の莉乃を呼び止めると、その事を問い質していた。
 潤の問いに困った表情を浮かべた莉乃だが、戸陰との深夜の外出まで話すと流石に驚いた様子をみせた。
 必死に説き伏せようとする潤を前に、なにか思案しているようだった。

「多分、長い話になると思うの……」
「大丈夫ッ、ちゃんと全部聞くからッ」
「ホントに? でも……潤ちゃんは、きっとわかってくれないと思うの……」

 寂しそうに笑う莉乃の姿に潤の胸が傷んだ。イジメを気付いてあげられなかったことが、罪悪感となってギュッと胸を締め付けてくるのだった。

(……でも、逃げちゃだめだッ)

 潤はギリッと下唇を噛み、挫けそうになる心を奮い立たせた。
 正面から莉乃の両肩を掴んだ潤は、涙目で必死に訴えた。

「莉乃の言うことなら信じるからッ、どんな事でも受け止めてみせるわッ」

 そうした熱意が伝わったのか、莉乃は嬉しそうに頷いた。
 そして、事実を話すから今夜、私の家に来てほしいと言ってくれたのだ。

「わかったわ、明日はお休みだし、久しぶりにお泊まりで夜通しで話そうかッ」
「えぇ、楽しみにしているわ……」

 上機嫌で部活へと向かう潤を見送ると、莉乃はスマートフォンを取り出して何処かへとメッセージを送るのだった。


もし、読まれてお気に召しましたら
よかったら”拍手ボタン”を
押して下さいませ。


web拍手 by FC2