魅惑の女 −喰らうは禁断の果実−

【5】 退屈を嫌う男

 青年たちが取り押さえれた室内に、遅れてひとりの男が入ってきた。
 黒スーツに赤シャツを着こんだ中年男だが、あきらかに周囲の者とは風格が違う。縦に走る刀傷を顔にこしらえた男を、先に侵入していた連中が緊張した様子で出迎える。
 威圧するようなその男の気配によってピリピリと張りつめた空気に青年らも息を飲む。

「……あぁ……斧寺……叔父さま」

 沈黙を破ったのは部屋の主でもある麻沙美であった。青年たちが取り押さえられ、ひとり立ち尽くしているところに斧寺と呼ばれた男は、拘束されたままの少女に歩み寄る。

「お嬢……これはまた随分とこっ酷くやられましたね」

 無遠慮に見据えられて、今の自分の姿が急に恥ずかしくなったのだろう。連日の陵辱でマヒしていた理性が戻ってくると、それまで抑えこんでいた感情が大粒の涙とともに次々と溢れだす。

「対応が遅れてすみません。状況は把握してあります」

 斧寺と呼ばれた男は、その風貌からもわかる通り、数々の修羅場を潜り抜けてきた武闘派ヤクザである。
 そして、麻沙美は彼がオヤジを仰ぐ組長の娘であったのだ。
 幼い頃から見知っている娘が、今ではすっかり女の身体になっていた。それに内心では戸惑いを感じながらも、自らの上着を肩に掛けてやると、その時ばかりは優しい手つきで目の前で号泣する娘の頭を撫でる。
 だが、視線がそれを貶めた青年らに向けられると再び周囲の空気が凍りつく。

「ア、アンタらは、なんなんだよぉ」
「お前らが手を出したのが誰なのかも知らんようだな」

 狼狽する青年らに斧寺は語ってみせたのは、摩沙美が隣接県で勢力をもつ暴力組織を統べる組長の娘であり、京香が妻であるという事実だった。
 年老いてからできた娘であるため摩沙美を溺愛している組長だが、今はとある事件で検挙されて刑務所にいた。その間のふたりを世話を任されたのが若頭である斧寺であったのだ。

「まったく、貴女が素直に話してくれれば余計なこともなかったのですがねぇ……ねぇ、姐さん」

 苛立ちを隠せぬ様子の斧寺の視線は、配下の者によって縄を解かれた京香へと向けられる。
 ハラリと脱げ落ちた着物の向こう、惚れ惚れする曲線美の裸体の背中には般若の刺青が彫られていた。
 高名な彫り師による逸品は、まるで生きているかのような般若が睨みを効かせて肝の冷える迫力がある。

「あの人の怖さはよく知ってますから……」

 寂しげな表情を浮かべる京香に斧寺は深々とため息をつく。
 彼がオヤジと慕ってきた組長だが、その女癖の悪さには若い頃から随分と振り回されていた。
 かつての京香は一流企業の社長令嬢であり、婚約者も決まっている身分だった。その血筋は旧華族の流れをくみ、文字通り深窓のお嬢様であったのだ。
 それが、なんの因果かまだ幹部だったオヤジの目にとまったことが彼女の不幸のはじまりだった。
 京香の美貌に一目惚れしたのもあるが、チンピラからドス一本で成り上がった彼は高貴な血筋を手に入れることに憧れを抱いたのだろう。
 京香を手に入れるために手筈を任された斧寺は、 彼女の友人関係から攻め、手駒を揃えていった。
 そいつらを使い学生旅行と誘い出し、京香を拐ったのだ。そうして熱海にある別荘へと連れ込み、待ち構えていたオヤジに差し出した。
 旅行期間中は誰にも不審がられない。その間、女好きでありサディストでもあった彼は、まだ男も知らぬ京香に苛烈な色責めを施したのだ。
 そこで彼女は、普通の男では満足できぬ身体に調教された挙げ句、婚約者への未練を断ち切らせるために、その背へと刺青を彫られてしまう。
 そうして、京香はオヤジの情婦にさせられたのだ。

(それからだな、上が次々と亡くなり、トントン拍子でオヤジが組長になったのは……そして、変わっていったのも……)

 当初は数いる情婦のひとりのつもりだったらしいが、次第に彼は京香にのめり込んでいった。
 その後、組長に就任してから後妻として迎えいれられたのだが、その頃には気風がよく懐の広かった男が嫉妬深く独占欲が強い男へと変貌していた。
 常に京香を取られまいと周囲に疑いの目を向け、若い男を近づけようともしない。それは愛娘が産まれると酷くなっていく。
 今では常に配下の者にふたりを監視させているほどである。
 その事に娘の麻沙美の方は辟易していたようだ。父親が入所したのを幸いと、大学への入学を契機に独り暮らしはじめた。
 当然のように上京した麻沙美にも監視役はつけられていたのだが、それを嫌った少女にたらし込まれたのだろう。

(お陰で監視の目が緩んだ隙に、この有様だ……)

 今回の件が組長に露見すれば、加害者の青年たちに加え監視を任されていた者たちもタダではすまないだろう。
 いち早く異変に気付いた京香が単独行動にでたのも、それを憂慮してのものなのだが、斧寺にしてみれば問題を複雑化させられ、余計な手間をかけさせられただけだった。

「斧寺の叔父様、早くアタシの拘束も解いてよッ、それからコイツらは絶対に逃がさないでよね、パパにお願いして死ぬほど後悔させてやるんだからッ」

 娘の方は甘やかされて育ったために現状を正しく把握できていないようだ。父親に報告すればどのような事になるのか想像できていないのだ。

(さて、どうしたものか……事を荒立たせぬには、この娘にどう教えたものか、下手な手を打てば京香の方がどう動くやら……くそッ、めんどくせぇなぁ)

 かつて自分を罠にはめたのが斧寺であると京香が気付いているフシがある。彼女の発言次第では、斧寺の身にも死が迫る可能性すらあるのだ。

(オヤジは福を招く女だと言うが、俺にとっては男を惑わす厄災でしかねぇ)

 その一方で、犯した娘の父親が資産家ではなくヤクザ組長だと知り、加害者である青年たちは震え上がっていた。涙ながらに命乞いする者まで出てきて、斧寺を更にうんざりとさせていく。

(考えなしの若造どもがッ、こいつらも処分しなきゃならねぇなぁ)

 信頼できる部下たちに抑え込まれ、床に這いつくばる彼らを見下ろし、斧寺は今後の処理を検討していた。
 その背後では、狩野がジッと機会を伺っていた。
 思考にふける斧寺の姿に、チャンスとばかりに動きはじめる。羽交い締めするヤクザをヘッドバットで怯ませ、彼の背後から襲いかかる。

(偉そうにしてるコイツを人質にとってやるッ)

 背後から強烈なタックルをかまして斧寺に張り付こうとする。だが、そこには大きな誤算があった。
 武闘派として数々の修羅場をくぐり抜けてきた斧寺は、殺気に対して肉体が敏感に反応する。今回も考えるよりも先に身体が反応していた。

「――なッ、なんで……」

 完全に不意をついたつもりの狩野であったが、迫った先には斧寺の膝が待ち構えていた。鈍い音とともに鼻先にめり込み、鼻血を派手に撒き散らすはめになる。

「……ん? あぁン、邪魔すんなッ」

 追撃に頭上から振り下ろされた拳によって床に叩きつけられる。鼻がグシャリ潰れる嫌な音をさせ、ドクドクと流れる血の池に倒れピクピクと痙攣する。

「チッ、俺も舐められたもんだな……おい、ひとまずコイツらを連れだしておけ」

 頭を靴底で踏みつけ、狩野を完全に沈黙させると部下たちに残りの連中を連行するように指示をだす。
 一連の暴力に先ほどまで騒いでいた麻沙美も圧倒されて黙りこくる。京香に抱きしめられながら、足元に転がる狩野を見つめていた。

(ふーッ、やっと静かになったな)

 懐から取り出したノンフィルターの国産煙草を咥える。煙草で一服するのは斧寺が考え事をするときの癖だった。

「……アイツの手を借りるか」

 その時点でどうするべきかは、すでに決まっていた。あとは彼自身が迷わず実行できるかだ。
 抱きしめ合う母娘を冷徹に見つめながら、深々と煙を吐き出す。それが霧散するころには、彼の腹は決まっていた。



 一ヶ月後、斧寺は愛車のレガシィを運転中に通話を受けた。
 相手は手を組んでいるビジネスパートナーであり、その口調から相手に敬意を払っているのがわかる。口元を緩めて談笑する彼の姿など強面に怯える配下たちが見たら目を剥いていることだろう。

「……で、わざわざそっちから連絡くれたってことは、完了したんだろう? あぁ、そろそろだと思って様子見下がてらそっちに向かってたところだ」

 街外れにあるウネウネと蛇行する峠道、それを登った先にラブホテルが建っている。視界内に他の車がいないのを確認すると、斧寺は車をその駐車場へと入れていく。
 既に廃業して数年が経過しているために外装は寂れた様子だ。だが、内部はバブル時期の贅沢な内装のまま綺麗に維持されていた。

「おいおい通話を切ってから五分もたってないぜ、そんなに待ちきれなかったのかよ」

 ロビーで苦笑いを浮かべながら出迎えたのは十代後半の少年だ。童顔で小柄な体躯だから、実年齢よりも幼く見える。
 だが、刀傷をこしらえた強面の斧寺を前にしても物怖じせずにいる胆力の持ち主だった。

「そう俺をからかうなよ、まぁ、当たってるがな」

 対する斧寺も気さくな対応をする。これが配下の者相手ならば拳が返答となっていただろう、それだけでも彼らの親密さがうかがえる。
 二人は親しげに会話を交わしながら施設の奥へと歩きだす。この少年――神喰い(かみくい)こそ、先ほど斧寺に連絡したビジネスパートナーであった。
 昨年、神喰がある協力を依頼しに斧寺の元を訪ねてきてから二人の関係は始まっていた。
 それを契機に犬猿の仲であった商売敵を始末した斧寺は、混乱に乗じてそいつが管理していた色街を手に入れていた。
 そのおかげで上納金もあがり、組織内での彼の株は昇り調子であり、あと一押しで自分の組を持てる状況にまでになっていたのだ。

「なぁ、あんたの立場なら、待ってれば次の組長になれるんじゃねぇのか?」
「気長に待てばそうだな……だがなぁ、俺はただ待つなんて退屈なことは嫌いなんだよ」

 斧寺は今回の件を組長に知れずに処分することに決めた。首謀者の青年らを秘密裏に処分して、穏便に事を運んだことで京香に大きな借りを作ることに成功した。
 組長の妻である彼女の後押しがあれば、斧寺が自分の組をもつという長年の夢もすぐに叶うだろう。

(だがなぁ、それだけではダメだ)

 気の強い娘が、今回の件を黙って流せるはずもない。そのままでは、いつか組長に露見するのは火を見るよりも明らかであった。
 それに京香自身も斧寺には危険な爆弾であるの変わりがない。
 そこで斧寺は妙案として考えたのが、二人の身を神喰に託すことだった。

(こいつには悪いが、手に入れたスキルを利用させてもらうぜ)

 初恋の相手である叔母をヤクザに寝取られ、それを奪い返すためにヤクザである斧寺と密約を交わすという大それた行動をした少年だ。
 その上、助けた叔母を夫の元には帰さずにそのまま監禁し、その心身を自分だけのものにした。それに協力した見返りに、かつて叔母に恋い焦がれていた者たちに彼女の身を提供しているのだ。

(女衒ヤクザによる過酷な調教によって刻まれた心身の傷痕、それを上書きするために憎いソイツのスキルで最愛の女を調教する……狂った所業だが俺は嫌いじゃないぜ、それにお陰で今回はそれに助けられている)

 京香と摩沙美は事件のあと人知れずここに監禁すると、神喰による調教を一ヶ月にわたり受けさせていた。
 女を喰い物にし、心身を絡めとり離れなくする女衒の技。かつて最愛の叔母を調教した男のそれを打ち破るために、神喰も身につけているのだった。

(だが、上手くはいってないようだな)

 調教した男の影を打ち消そうと奮闘しているのだが、完全とはいっていないようだ。
 目の下に刻まれる隈の様子から、斧寺はそれとなく察する。

「俺のできる調教は終わって、いろいろとタガを外してある。あとはアンタに依存するようコイツらの心に刷り込ませるだけだ」

 案内された扉の向こうにはベッドルームがあった。周囲はおろか天井まで鏡を配置した部屋で、中央には巨大な円形の回転ベッドがある。その上で正座する母娘の姿があった。
 背後で揃えられた両腕を二の腕まで覆うアームバインダーで拘束され、細首には肉厚の深紅の首輪ははめられている。
 首から爪先までの全身を極薄の黒いラバースーツに包まれ、肌が露出するのは根元で括られた乳房と股間部分だけだ。お互いを向き合わせ、その乳房同士を押しつぶし合い、銀のバーベルピアスが貫く乳首を擦り合わせている。
 そうして、リングギャグが噛まされた口元から、まるで発情した牝犬にように熱い吐息を振りまきながら、突き出された舌先を絡め合う。混ざり合った二人の唾液がダラダラと糸をひいて垂れ落ち、太ももを濡れ汚していく。
 その膝先も互いの股間に差し入れて、リングピアスが貫く肉芽を刺激して、切なげな牝声を漏らしていた。

「はッ、こりゃ凄いな、血の繋がりはないとはいえ慕いあっていた母娘が、まるで恋人のように熱く絡んでいるぞ」
「連日、逝き癖がつくほど達していたのに、ここ三日はお預け状態だからなぁ、お互いで慰め合いながらチ×ポを挿れたくて頭の中はいっぱいさ、あとは存分に可愛がってアンタの真珠入りの奴を覚えこませればいい」

 説明をききながら、すでに斧寺は上着を脱いでいた。
 これからふたりを犯して、絶対服従するよう調教を仕上げる。それによって情報の漏洩を封じて今回の件は完全に闇に葬り去られるはずだ。
 それに加えて京香を隷属することで憂いをなくし、組長亡き後に彼女を代表に据えれば今の組も裏から支配することもできる。実質的にふたつの組を配下に持つことも可能なのだ。

(いろいろと野望は尽きないが、今はコイツらの相手を楽しむとするか)

 女好きの組長が絶賛して手放さなかった魅惑の肉体をもつ女、そして幼い頃から知り、叔父様と慕ってくれていた美少女が成長して奴隷姿で目の前にいる。
 ふたりを犯す背徳感にストイックな斧寺も昂っていた。

(抱いた男を惑わす魅惑の女か……さて、アニキを組長にしたように俺にツキを呼ぶのか、それとも魚の餌となった若造どものように不幸を招くのか……フッ、どちらにしても退屈だけはしなずに済みそうだな)

 臍まで反り返る真珠入りの怒張を滾らせ、斧寺はふたりに迫っていく。

「あぁン、叔父様ぁ、早くぅ」
「ご主人様ぁ、私にもご奉仕させてください」

 斧寺を迎え入れて魅惑の笑顔を向けてくる母娘。その二人がもたらす禁断の果実の味を前に、彼もまた獣欲に狂う残忍な笑みを浮かべるのであった。





もし、読まれてお気に召しましたら
よかったら”拍手ボタン”を
押して下さいませ。


web拍手 by FC2