隷属の交換契約 ー変えられた僕の幼馴染みー

【1】憧れの幼馴染み

「ねぇ、その胸ぐらを掴んでる手……離してくれないかなぁ?」

 不良たちに絡まれていた僕に、助けの手を差し伸べてくれたのは幼なじみであるミカ姉こと心空(しんくう) 未可子(みかこ)だった。
 同じマンションの隣部屋に住む彼女の家とは、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがある。
 ミカ姉の両親はカメラマンとして活躍していて、長期で不在な時が多いというのもあって、よく我が家で預かって姉弟のように育ってきた。
 気弱な僕はニつ歳上のミカ姉にいつも助けられてばかりだったけど、一時は彼女に憧れて同じ空手の道場に通っていたこともある。
 残念ながら僕は体調を崩して辞めてしまったけど、その後も続けていた彼女は今では大会で何度も表彰台にあがるまでになっていた。
 そんなミカ姉と同じ高校に行きたい僕は、その日は学校帰りに参考書を探しに商店街に寄っていた。
 そこで、運悪くクラスのガラの悪い三人組に絡まれて、路地裏に連れ込まれてしまう。
 学校のみならず周辺地域でも悪名を轟かす不良三人組で、ひとりでも悪童として有名だった奴らが中学でつるんだものだから、大人でも手を焼いている厄介な存在だった。
 そんな三人組のリーダー格である南波(なんば)に、秋空の下で胸ぐらを掴まれているわけだった。

「なんだよ、邪魔すんなよ、コイツの知り合いか?」
「そうだけど、だから離してくれと頼んでるだけどね」
「はッ、お前ぇ、こんなイイお姉さんと知り合いなのかよ。なぁ、紹介してくれよぉ」

 お願いの体裁はとっているけど、目では断るなと威嚇してきている。
 まぁ、確かにミカ姉は、ちょっとばっかり気が強いけど可愛いし、綺麗だと思う。
 背中まで伸ばした髪はサラサラでいい匂いするし、毎日の鍛錬を欠かさない身体は、見事に絞り込まれているのに、その胸のボリュームは年々増すばかりで、密かに目のやり場に困ってる。
 特に弟同然に扱う僕にはスキンシップは激しくて、よく背後から抱きついてくるから本当に困ってる。
 僕だって男だからっと強く言いたいけど、彼女との関係が崩れるのが怖くって赤面して黙るしかない。
 そんな大事な存在だから気弱な僕でも、この時ばかりは脅しにも毅然と断れた。

「はぁ? なに断ってるの、お前ごときがなにをトチ狂ってんだよ」
「あれだ、この綺麗な姉ちゃんに良いところ見せようって頑張ってるんだろ」
「お前なぁ、もうちょっと考えてから喋れよなぁ、毎日のように学校でツラを合わせるんだからよぉ」
「それでも、嫌なものは嫌なんだよッ」

 相手の目を睨んで叫ぶ僕の気迫に、意表をつかれたのか掴んでいた手が緩む。
 すかさず、それを振りほどくとミカ姉を守るようにして、三人組の前に立ち塞がる。
 それが余りにも予想外な展開だったんだろう。茫然としていた彼らだが、次には突然笑いだす。

「ぷはははッ、なにマジになってるんだよ」
「いじめられっ子がナイト気取りかよ、ウケるわー」
「いや、あり得ないって、そうだろぉ、こんなゴミ虫風情が俺らに歯向かうなんでよぉ」

 無抵抗と思い込んでいた相手からの反抗が、想像以上に怒りを買ったらしい。ブチ切れ状態で殴りかかってくる。

「よくいったわ、あとは任せてッ」

 ボッと空気を裂く音とともに、僕の脇からミカ姉の鋭い蹴りが放たれる。
 ちなみに彼女も制服で、ブレザーを着込んだ下はチェック柄のスカートだ。恐らく深く考えるよりも身体が動いてるんだと思うけど、そういう雑なところは心配になる。
 年下とはいえ三人を相手に大立ち回りをして、舞うスカートからはチラチラとピンクの下着が見えているのに気付いていない。

「つ、強ぇぞ、この女ッ」
「空手使いかよ、技がシャレになってないぞ」
「チッ、囲め、3対1なんだぞ、頭を使えッ」

 頭のまわる南波の指示で、掴みかかろうとミカ姉を取り囲む。
 三人の相手では掴まれて動きを止められるだけでも致命的だ。ジリジリと包囲を狭められるほどに動きが制限されて窮地になっていく。

(マズい、助けないと……)

 僕が助けに動き出そうとした瞬間、大きな笛の音が周囲に響き渡る。乱闘騒ぎを聴きつけて、警察官が駆けつけてくれた。
 その瞬間、彼らのような不良の行動は素早い。警察官が来るのとは反対方向へと脱兎のごとく二人が走り出していた。
 ひとり残った南波は、ミカ姉の全身を舐めるように見たあとに、僕に視線を向けてくる。

「まぁ、今日はこの可愛い姉ちゃんに免じて終わりにしてやるよ、この続きは学校で楽しもうなッ」

 金髪に染めて、妙に荒事に場慣れした雰囲気の南波がニタリと不気味に笑う。悪い噂が絶えない彼には、他のふたりにはない凄みがある。
 それに圧倒されてしまうけど、それも一瞬で、すぐに南波も走り去っていった。




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