哀願飼育

――ガチャッ

 玄関が解錠される音がして、人が入ってくる気配がする。
 それは徐々にこちらに近づくと廊下とリビングを隔てる扉が開かれた。

「ただいまーッ、うふふ、いい子にしてたぁ?」

 彼女はゲージ越しにジッと見つめる私にニコリと微笑むと、上着を脱ぎ捨てて正面にあるソファへとドカリと座る。

「あーッ、疲れたーッ」

 浅く座り、脚を投げ出す姿は上品とは言い難かった。首元の紐タイを緩めてボタンを外すと白のブラウスを脱いで下着姿になっていく。
 溢れ落ちそうなFカップの豊満な乳房を支えるレースをふんだんに施された純白のブラジャー、ライトブルーのフレアスカートの下から現れた黒いストッキング越しに見えるお揃いのショーツがあらわれる。それらは今日の為に用意した高級ブランドの下着だった。

「ねぇ、今日の先輩とのデートの結果……気になるでしょ?」

 そう尋ねるけど私の意見など求めてはいないのは知っていた。
 黙って顔を背けるのに気を悪くした様子もなく、彼女は話を続けていく。

「なら教えてあげる。先輩とセックスしてきたわよぉ、私が処女じゃないのに少しビックリしてたわね……思ってた以上に清純に見られてたのね。でも濃厚にお口で奉仕してあげたら大喜びで、うふふ、結局、三回……あ、朝のも入れたら五回も出してすごーく濃厚な一夜だったわ」

 そういうとバッグの中からあるモノを取り出した。それは中に白濁の液体が詰まった使用済みのコンドームで、口が固く結ばれていた。

「せっかくだから、お土産にこっそりと持って帰ってきちゃったッ」

 目の前のフローリングの床にそれをひとつひとつ並べていきながら、楽しそうに昨夜の先輩との情事をこと細かく報告していく。
 できることなら耳を塞いで聞きたくはなかった。だけど、今の私にはそれは許されないことだった。

「ほぉらッ、出てきなよッ、お土産なんだからアンタにも味わせてあげる、うふふ、愛しの彼との愛の証よ」

 イヤイヤと首を振る私を、首輪の鎖を引いて大型犬用のゲージから引きずり出す。
 口に噛まされた口枷のゴム栓を抜き取り、細い指で私の舌を引き出した。そこへコンドームからドロリと滴る精液が垂らされていく。

「わかってると思うけど、一滴でも溢したらお仕置きだからねッ」

 残忍な笑みを浮かべた彼女の言葉に、私の身体は条件反射で震えだしてしまう。
 必死に舌を突き出して、次々と滴り落ちる精液を受け止める。
 口腔へと次々と流し込まれてくる精液。そのはじめて味わう風味に吐き気をもよおしてしまう。
 だけど、彼女の言うお仕置きの怖さを嫌というほど心身に刻み込まれている私は涙目になりながら必死に耐え続けた。

「あははッ、上手、上手ッ、牝犬ぷりが板についてきたじゃない、ホーント、お似合いだからそこの鏡で自分を見てごらんよ」

 頭を鷲掴みされて背後へと向けさせられてしまう。そこには寝室から移された姿見の鏡が置かれていて、今の私の姿が映し出されていた。

――全身を黒いゴム製のスーツで覆われていた。革製の拘束具で四肢をそれぞれ折りたたまれて、肘と膝で四つん這いになる姿を強要されていた……

――身体も亀甲縛りのように締め付けるハーネスによって歪に変形され、大きな乳房がロケットのように絞り出されてしまっている……

――その先端で硬く尖った乳首を銀のリングピアスがスーツごと貫いて、そこから吊らされた錘が身動ぎするたびに激しく揺れて乳首を引き伸ばしていた……

――下半身には貞操帯を着けさせられていた。秘部とお尻に挿入された大人の玩具に焦らされて腰が切なげに揺れている……

――頭部も全頭マスクで覆われて、鼻に掛けられたフックによって無惨な豚鼻姿を晒していた……

 大型犬用の首輪から伸びる鎖を持たれて、開口具から舌を突き出しながら四つん這いで佇む姿は牝犬のようだった。
 唯一露出する潤む瞳で訴えるのが自分の姿であるとは信じたくはなかった。



 関西地方の裕福な家庭で育った私、楓 真帆(かえで まほ)は、上京して大学に通うのにマンションまで用意してもらっていた。十分すぎる仕送りを貰っているからアルバイトをする必要もなく、明日からの夏休みは告白された先輩とのデートにあてるつもりだった。

――そんな夏休みを楽しみにしていたところに来訪者は突然やってきた。

 インターフォンの画面に映るのは私と瓜二つの女性。それに衝撃を受けた私は、リビングへと通した彼女から自分が孤児院から両親に引き取られていた事実を知ることとなった。
 そして、目の前の女性こそが施設へと一緒に捨てられた双子の姉であることを知らされた。

「……お姉……さん?」

 感動の再会っというには急すぎだった。全ての事実を受け止められないうちに、姉を名乗る彼女は自分の生い立ちを語りだしていた。
 ある夜、借金を積み重ねて夜逃げしていた夫婦が施設の前に捨てられていた双子の育児を見つけていた。彼らは職員が来る前に片方の育児を持ち去っていて、それが姉の片帆(かたほ)だった。
 夫婦がなにを目的に拐ったかは分からない。ただ、彼女が育った環境はひどいものだった。物心がついた頃から奴隷のようにこき使われ、お金を稼ぐ為に犯罪行為までさせていたのだった。
 そんな日々を送りながらも成長した彼女だけど、夫婦はこともあろうか臓器販売をする闇ブローカーへと売り飛ばそうとしていた。
 幸い、寸でのところで逃げ出すことができたけど、それからは、窃盗、売春、麻薬の売人と人殺し以外の悪事をしながら街を転々としながら独りで生き抜かなければいけなかった。
 そんな荒んだ生活をしていた彼女が偶然にこの街で見掛けた自分と瓜二つの私という存在。鏡でもみているかのような私に彼女は強く興味をひかれたらしい。
 知り合いの探偵に詳しく調査するように依頼したものの、それをすぐに後悔することになった。
 受け取った報告書から私が裕福な家庭で育ち、周囲からの愛情を注がれてきたのがわかった。そんな羨むばかりの幸せな生活を送ってきた私に対して、真逆な人生を歩んできた自分が惨めなのだと再認識させられてしまったからだった。
 そして、私が自分の双子の妹だと知ると羨望は激しい嫉妬へと変わっていった。

「なんで……なんで、アイツばかりが……」

 ドス黒い感情に心が染まった彼女は、ある決心をして私の元へと訪れていた。

「アンタは、もう充分すぎるほど幸せを堪能したよねぇ? なら、これからは私が幸せになっても良いよねぇ?」

 狂気に染まった双子の姉によって私は拘束されると檻の中へと押し込まれて幽閉されてしまった。
 事前に調べた詳細な情報と瓜二つの顔を利用して姉はあっさりと私と入れ替わった。
 友人たちに怪しまれることもなく今まで私が過ごしてきた日常を堪能した彼女は、この日の為に私が用意していた下着を身につけて憧れの先輩との一夜すらも奪っていった。

「う、うぅ……」
「あら、嬉し泣き? じゃぁ、これも喜ぶでしょ」

 新たにバックから取り出した映像ディスクをテレビにセットする。大型モニターに映し出されたのは先輩との昨夜の映像だった。
 ラブホテルらしき室内、ベッド端に座る先輩の脚の間に彼女がひざまづいている。
 カメラが切り替わると股間へと顔を埋めてフェラチオ奉仕する姿が克明に映し出された。

「うん、よく撮れてる、撮れてるッ、知り合いがホテルに隠しカメラを仕込んでて、それを分けてもらってきたのよ、アンタの調教記録シリーズもよく売れてるって喜んでたよ」

 腰にベルトで極太のディルドーを装着しながら、私と同じ顔が狂喜に肩を震わせる。

「うふふ、これを観ながら今日も飽きるまで存分に悶え狂わせてあげるわね」

 涙ながらに目で訴える私の腰から貞操帯を外された。押し込まれていたバイブレータを引き抜くと、失禁したように大量に溢れだした愛液が太ももを激しく濡らしていく。
 麻薬成分を含む強力な媚薬を塗られて放置されていたそこは狂おしいほど疼き続けていた。充血してパックリと開き、ビール瓶ほどもある極太のディルドーを喜んで迎え入れてしまう。

「あッ――あぁぁッ」
「さぁ、牝犬らしくアンアン哭きなさいよッ、ホラホラッ、あはははッ」

 正面の大型モニターではラブホテルのベッドの上でバックで交わる先輩との性行為が映し出されていた。
 思わず目を反らすと頭を掴まれてそれを見るように強要される。そして、映像の先輩に合わせて腰を動かすと激しいシャフトを繰り出してきた。
 パンパンと乾いた肉音をたてながら腰を打ちつける。極太のディルドーが膣壁を抉り、愛液をかき出していく。
 連日の調教で淫らに開発されてしまった肉体は、待ち望んだ肉悦に歓喜でうち震えてしまう。心とは裏腹に膣全体が絡みつくように締め付けると、閃光のような激しい刺激に脳が焼かれそうだった。
 精液にまみれた開口具のリングから牝犬のように舌を突き出して、私は淫らな喘ぎ声をあげ続けた。

「あッ、あン、あぁぁン」
「あははッ、アンタの幸せを全て奪ってやるわ、今度は私が幸せになってやるんだからッ」

 自らもセックスドラッグを服用した彼女は涙を流しながら狂ったように私を責め立て続ける。
 それに涙する私もまた被虐の悦楽に徐々に脳を染め上げられていくと、僅かに踏み留まっていた理性もかき消されて肉悦へと溺れていった。
 そうして、数日前まで女子大生としての幸せな生活を謳歌していた私は、半身である双子の姉によって全てを奪われ、人間以下の牝犬へと堕とされていった。
 だけど私は気付いてしまっていた。奪うことでしか幸せを得ることのできない彼女には、本当の幸せが訪れることがないことを……。





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