年下の彼女はツインテール

【2】 刺殺する彼女はツインテール

 下校途中に、特売セールをしているスーパーに立ち寄った俺は、両手いっぱいの戦利品を持って帰宅する途中で、トイレに行くために近くの公園にある公衆トイレに立ち寄った。

「ちょっと食材を多く買いすぎちゃったし、アイツにも夕食をご馳走してやるかなぁ」

 今夜の献立を考えながら用を足してトイレから出ようとすると、入口から人相の悪い男達がドカドカと入って来た。

「兄ちゃんには悪いが、あんたのオヤジさんに言う事きいてもらう為の人質になってもらうぜぇ」

 そう先頭の男が宣言すると、一人の男が大きな麻袋を拡げて、俺に近付いて来る。
 だが、その刹那、プシュッと鈍い音と共に、奥にいた男が突然倒れた。

「先輩! 大丈夫ですか?」

 その背後から、夕日を浴びて立つツインテールの少女が現れた。
 当然の邪魔者の出現と、それが可愛らしい少女である事に戸惑っていた男たちであったが、うつ伏せに倒れた男の下から、血がドクドクと流れ出し血だまりを作るのを見ると殺気だった。

「なんだこの小娘! やっちまぇ!!」

 だが、少女に襲い掛かった男たちは、あっという間に投げ倒されると、次々と頸椎を針で突き刺されて簡単に死亡していった。

「おッ!? おいおい、何も殺すことないだろう」

 男たちに淡々と止めを刺していく彼女の姿に、俺は慌てた。

「いえ、こうしておかないと後々面倒ですし、機関としてはバランスを取りつつ一人でも擦り減らす、というのが方針ですから」

 そう言ってニッコリと俺に微笑む彼女だったが、その時の眼は、殺人エージェントの冷酷な光を帯びていて、俺は心底ゾッとした。



 そんな彼女に警護される日々が1週間続いた夜、俺の携帯に差出人不明の一通のメールが届いた。
 そのメールには一枚の画像が貼り付けられており、そこにはコンクリートの壁に打ち込まれた金属の環から伸びた鎖で両手を左右に高々上げさせられ拘束された漆黒のボディスーツ姿の彼女が写し出されていた。

「――なッ!?」

 そして、俺がその画像を見るのを見計らったように、携帯が着信を知らせる。

「……もしもし」
『おう、兄ちゃん、メールは見たかい? その写真は1時間前のものだが、今もドンドン事態は進行しているぜッ! 少しでも早く助けたかったらメールに添付されてる場所まで来い。あぁ、もちろん一人でなッ。俺らの目的は兄ちゃんだけだからよ、素直に来てくれれば、このちっちゃい彼女はすぐに解放してやるぜぇ」
「か、彼女の声を聞かせろッ!!」
『あーッ、今、俺のを咥えさせてるから無理だな……おッ、お、お前、フェラがうめぇなぁ。もうちっと奥まで……そうだ……くぅ……いいぞぉ……』
「――くそッ!!」

 俺は悔しさに拳を痛いぐらい握り締めた。
 そんな俺の反応に、電話越しの男は上機嫌になる。

『へへへッ、兄ちゃんも味わいたかったか? それだったら……ん?』
『オゲェェェェッ!!』
『わーー! こいつ吐きやがった! なに誉められたからって、そんなに喉奥まで飲み込んで無理すんなよッ!!』
『げほッ、ごほッ、へんぱい! きちゃらめれす! わなれす!!』
『バカ野郎、先に口拭いてから喋りやがれッ! あぁぁ、俺の買ったばっかりのスマホがゲロまみれになっちまった……』
『そのヒュマホ、ぼうひゅいらから、あらえばいいれひょ!! オゲエェーッ!!』
『うぎゃぁぁぁ!!』

 掛けた相手があからあさまに罠だと言ってるのに、『わなれす!』って……

 俺は静かに通話を切ると、色々な意味からも急いでメールに記載されていた現場へと向かった。



 指定されていた場所は、町はずれの廃工場だった。
 灯りの漏れている扉から階段を降りると、地下の資材置き場がさながらSMルームのように改造してあった。
 コンクリート剥き出しの四角い部屋の中央、ホイストから垂れ下がったチェーンブロックの先で、彼女は床から1m程の高さに吊られていた。

――メールの写真で見た時に着ていたあの漆黒のボディスーツは脱がされ、彼女の華奢な裸身には分厚い黒革製の拘束具を着せられている……

――背後で真っ直ぐに伸ばされた両腕には、二の腕までスッポリとアームザックが被せられ、そこから伸びた何本ものベルトが、上半身に巻きつき、ガッチリと両腕の自由を封じていた……
 
――黒革のベストを着させられた上半身は、胸元に丸い穴が開いており、そこから微乳と言うべき乳房が僅かに絞り出されている……

――大きさの割に目立つピンクの乳首には、無残にもピアスが穿たれ、ライトの光を浴びて冷たく光るシルバーのキャプティブビーズリングの周囲からは未だ血が滴っていた……

――意外に括れているウェストは、編み上げの革製のコルセットが装着させられ、これでもかというぐらいに締め上げられている……

――長い足にはその風貌に似合わない超ハイヒールで太腿まである編み上げの黒いブーツを履かされいた……

――グッタリと項垂れた顔には、さっき吐いた罰なのか、開口リングギャグのついたハーネスが嵌められ、ゴム栓で口が封じられている……

――何も履かされていない下半身は、こころなしか下腹部が膨らみ、彼女は全身にタラタラと脂汗を垂らしており、その足元の床には巨大な使い捨て浣腸パックがいくつも転がっていた……

――そんな彼女の上半身には鎖が幾十にも巻き付き、小柄な身体を吊り上げており、彼女の身に起きた無残な惨状を曝していたのだった……



「ンッグゥーーーーー!!」

 部屋に入った俺に気付いて、吊られた彼女が蒼白な顔で暴れ始めると、それを合図にしたかのように物陰から男たちがゾロゾロと出て来た。

「フフフ、やっと来たか」

 男たちの中で、頬に切り傷が入ったもっとも貫禄のある男が、彼女の傍に歩み寄った。

「……彼女を返せ!」
「まあ待て! これからこの腹をスッキリさせたら、アナルを犯してやる所なんだからよ」

 そういうと、男は吊られた彼女の下腹部あたりに顔を近付け、膨れたお腹に頬を寄せ、手でさする。

「どのみち兄ちゃんはここで人質になるんだし、このちっちゃい彼女ともお別れだから、別に構わんだろう?」

 男は口元を歪め、残忍そうに笑う。

「俺は素直について行くから、彼女に酷い事をするな!!」
「酷い事かぁ……酷い事なら、俺らの方が散々されてきたんだがなぁ」
「……はぁ?」
「知ってるか? このちっちゃい彼女は、俺らの世界じゃ通称”ツインテール”て呼ばれててなぁ、俺の組織だけでも3桁近い人間がヤラれているんだぜぇ? 他の組織も合わせたら、どんだけの数になるのやら……お陰で組織間で凄い額の懸賞金が掛かってるぐらいだぜ」
「……じゃぁ、素直に開放なんて……しないよなぁ」
「はははッ、廃人になるまで犯し抜いてやるよ! その後は、他の組織にも貸し出してやるか。恨みを抱いてる連中はごまんといるから、簡単には死なせんから安心しろ」

 そう言って、相手のボスらしき男は彼女から手を離すと、俺に向かって足を踏み出す。
 その背後では、吊られた彼女がゆっくりと回転していた。

「ウー、フンッグッ!!」

 その吊られた彼女の脚が素早く動くと、ガシッとボスの首を両脚で挟み込み締め上げた。

「――ぐぇ! なッ!? なにィ!! ぐぅ、まだ、こんな力が……」
「ボ、ボスッ!!」
「おっと、動くなよッ!!」

 予想外の彼女の反撃に驚くボスと、彼女を引き剥がす為に駆け寄ろうとするその部下の男たち。俺は素早く状況を見取ると、声を張り上げてその動きを制した。

「なに!? おぅ、兄ちゃん何言ってやがる!!」
「彼女の力なら、ポッキリとボスの頚椎をへし折っちゃうかも知れないぜッ、彼女の能力……あんたらは、よく知ってるんだろう?」
「ぐッ……て、てめぇ……」

 状況をようやく理解できた男たちは身動きとれず、ただ怒り狂った凄い形相で俺を睨みつける。
 それだけでも、普通の高校生なら縮み上がってしまう状況だが、悲しいかな幼少の頃から、そんな大人たちに囲まれて育った俺には、効果が無かった。

(……特に世の中で一番怖ぇ親父の顔を拝んで育ちゃ、イヤでも感覚が麻痺するぜ……)

 俺は男たちの間を平然と抜けて壁までスタスタ歩くと、設置されているスイッチを操作してホイストをこっちらへと移動させた。
 そうして引き寄せた彼女の身体に巻き付けられた鎖を解き始めるのだが、彼女の身体がガクガクと激しく震えているのに気が付いた。

「ウ、ウゥゥゥ……」
「――あッ、やばッ!!」
「なッ、まさか……や、やめ……うぎゃぁぁぁッ!!」

――ブッ……ブーーーーーーーッ!!

 彼女の尻より激しい放屁音が放たれると大量の濁液が霧状に噴出し、ボスの悲痛な叫びが地下室に響いた。
 俺も男たちも、目の前のあまりの惨状に固まったように呆然と見つめていた。
 だが、いち早く正気に戻った俺は、とっさに彼女を吊っていた鎖だけを解き放つと、拘束されたままの彼女を肩に担ぎ上げ、脱兎の如く逃げ出した。

「――あッ! ボ、ボスぅぅ!!」
「に、逃がすなぁぁ!!」
「や、やろうッ!!」

 背後から聴こえる怒声を無視して、俺は階段を必死に駆け上り廃工場の敷地へ上がった。
 小柄とはいえ女の子ひとり担ぎ上げた状態で階段を登るのはキツく、どうにか工場を出て人通りの少ない通りまで出ると息が完全に上がってしまった。

――ぜぇーッ……ぜぇーッ……ぜぇーッ……

 動けずにいる俺たちをだったが、背後からはなぜか追手が来なかった。
 俺は少し呼吸が回復すると、着ていたTシャツを抜いでアームザックを装着したままの彼女に被せてやる。そして、顔を戒めているハーネスを緩めると口枷を外してやった。

「ぷはッ、ハァ、ハァ……あ、ありがとうございます」
「敵のボスをクソ塗れにするなんて……はははッ、凄いエージェントがいたもんだなぁ」
「あぁぁぁ……い、言わないでください〜 うー、先輩に見られて恥ずかしいよぅ……」
「まぁ、おかげでヤツらの意表をつけて脱出できた訳だけどな。でも、あとが怖いな……」
「それだったら安心してください。入れ替わりに仲間が来てましたから」
「え?」

 その途端、ドーンという轟音とともに背後の廃工場から巨大な火柱が上がると、激しい熱気が背中を打ちつけた。

「明日の地元3面記事には『廃工場で大爆発! 残留資材に引火か!?』って載りますね」
「……おっかねぇなぁ……」



 その後、拘束具は南京錠で施錠されて脱がせられなかったので、全裸に拘束具姿という凄い格好のままの彼女を、爆発の野次馬の目につかないよう俺のアパートの近くまで連れ帰ったのは朝方近くだった。
 その時になって、俺は大事な事を想い出した。

「あーッ、なぁ……あのなぁ、廊下での……答えな……」
「はい?」

 突然の事で、俺が何の事を言っているのかすぐに理解できず、彼女は不思議そうな顔で俺を見上げた。

「……『いいよ』だ」
「……え?」
「だから、告白の件の答えは『いいよ』だよッ」
「え……えぇ!? ほ、ほんとでしゅ……痛ッ、ホントですかッ!!」

 パァっと笑顔が広がり、踊り出さんばかりに大喜びする彼女。

「わーい! ありがとうございます、せんぱーい!!」

 だが、立っているのも辛い超ハイヒールを履かされ、アームザックで両腕を戒められているのも忘れ、嬉しさのあまり俺に飛びつこうとした彼女は、そのままアパート前の路上でビッターンとダイナミックに転げて、何も履いていない股の付け根まで全開に俺に曝け出した。

「うぎぃ! 乳首打ったぁ! 痛いようぅぅ!!」

 裏の世界の男たちが恐れる凄腕のエージェントとは思えぬ彼女のドジさかげんに、俺は『いいよ』と言ったのを5秒で後悔するのだった。


…… END ……