虜囚将校[2] ―猛る武人の国の女性将校の苦難―
【4】秘められていた昏い欲望
それからも比奈子は多忙な日々を過ごしていた。綾乃が不在なのをカバーしつつ自分の業務をこなし、その上にヴェロニカの裏のサポートもこなしているのだ。
常人から見たら殺人的なハードワークなのだが、元々の有能さに加えて信愛する主が用意してくれるご褒美が彼女の活力になっていた。
そうして、激務をこなしながら待ち続けた彼女に待望の連絡が来たのは、リングを手渡してから一週間が経過した頃だった。
「待たせたわね。準備が整ったわ」
電動車での移動中にそのメッセージを受け取った比奈子は、部下たちに鉄仮面と称される表情をおもわず崩しかける。
緩みそうになる口元を咄嗟に隠すと同乗する部下たちの様子をうかがう。幸い気づいた者はいないようでホッとする。
「あぁ、用事ができたから、ここで降ろしてもらうわね」
夜まで待ちきれぬとばかりに車から降りると、そそくさと歩きだす。
それでも、はやる気持ちをおさえて目的地に直行せずに、尾行者の有無を確認するあたりは有能さの現れだろう。
「来たわね」
連絡を受けて駆けつけてくる時間まで予測していたのだろう、別荘の管制室に赴くとヴェロニカが微笑みとともに出迎えてくれた。
その笑顔を前にすると比奈子は、かしずきたい衝動に駆られてしまう。
自分でも認識していなかった隠れた欲望を引きずり出して、それを受け入れてくれる存在として完全に心酔しているのだ。
「ヴェロニカ様、ご連絡をありがとうございました」
自然と身体は床に膝をつき、深々と頭を下げていた。それにヴェロニカも満足そうに頷いて応える。
「待ちきれなかったようね、すぐにでもはじめる?」
「はい、お願いします」
ふたりの間では余計な会話は省かれる。視線や仕草からお互い情報を読み取れるからだが、奇妙な連帯感がそこにはあった。
「では、行きましょう。しっかり楽しませてもらうわね」
「はい、お任せ下さい」
それだけ告げてふたりは準備を整えると、管制室を出て綾乃の元へ向かうのだった。
カツカツとヒールを打ち鳴らして廊下を歩くヴェロニカと比奈子は、それぞれボンデージ衣装に着替えていた。
首から足先までを純白と深紅のボディスーツで包み、腰を極限まで括れさせるコルセットを装着している。
女王様のように毅然と歩む主に付き従う比奈子には、奴隷である証である首輪がはめられ、引き締まった手足には枷が装着されているのだが、それが当然という雰囲気だ。
普段は堅物といった比奈子だが、今はその表情は期待で高まり、頬を紅潮させている。
まるで恋する乙女のようだが、それは半分事実であろう。これから向かう調教室にいる綾乃とは短い間ではあったが恋人関係だったのだから。
それはレズビアンである綾乃を貶めるためのヴェロニカの策略でもあったのだが、毎夜のように肌をあわせて愛を囁きあった相手である。普通なら情がわいても不思議ではないだろう。
「さぁ、ついたわよ」
ヴェロニカに続いて入室した比奈子を、むせるような濃厚な牝臭が出迎える。
その臭いの元である綾乃は部屋の中央にいた。
――ギシッ……ギシシッ……
天井から垂れ下がる鎖を軋ませて両腕を吊られた綾乃は、妖しい光沢を放つ黒ゴムの拘束衣を彼女は着せられていた。
――拘束衣は胸元がくり抜かれて露出する乳房以外すっぽりと包む上着だ。指先から腰までが黒いゴム素材で覆われている。
――両腕は持ち上げられて頭の後ろで組むように交互に揃えられと、拘束衣のベルトで固定されていた。漆黒の指がなにかを求めるようにさ迷っていた。
――拘束衣から垂れ下がるベルトに同素材のロングブーツが繋がれて、太ももまでゴム素材が両脚を覆っている。爪先立ちをしてるかのような高いヒールで立っているのもやっとのキツさだ。
――その上、両腕は天井の鎖で吊り上げられて、両脚はガニ股ポーズになるように膝裏に開脚棒が装着されている。そして、足枷には床のU字フックと鎖で繋ぎ止められて身動きが取れないようにされているのだ。
――だが、その苦しげな表情を見ることはできない。頭部は全頭マスクを被せられて視界を封じられていた。耳にはカラム式のイヤフォンが押し込まれ、バルーンギャグを噛まされて聴くことも喋ることもできない。
――そうした状況下で大量の媚薬を膣内に塗りつけられた彼女は、菊門に拡張用のアナルプラグを押し込まれ、陰核に装着されたリングの振動で悶えさせられ続けていたのだ。
ヴェロニカによる連日の調教で綾乃の肉体は感じやすいように改造されていた。
その上、強力な媚薬まで投与されているのだ、ランダムに強弱を繰り返すリングの振動は身悶えさせられて逝かされ続けていた。
軽い絶頂の波が続けられて、苦しげに全頭マスクで包まれた頭が左右に振られる。
そのたびに口元から垂れるポンプのチューブが揺れ、露出した肌から浮き出た汗の珠が周囲に飛び散ってキラキラとライトを反射するのだった。
「んッ、んふッ、ふぅぅッ、ん、んん――――ッ」
今もまた、軽い絶頂を迎えて秘唇から愛液を滴らせていた。
だが、彼女が達しようともリングの振動は止まらない。余韻に浸る間も与えられず、外そうと激しく腰を振っても、ガッチリと肉芽に食い込んだリングは外れる気配はない。
そのリングを振り外そうとする腰も動きも次第に快楽を求めるものに変化していく。貪欲になった肉体は、少しでも多くの刺激を得ようと腰が自然と前後に振られてしまうのだ。
「ううッ、うぐぅッ……」
呻き声をあげては、汗まみれになった肢体が切なげに揺らす綾乃。様々な感覚を遮断された彼女に、唯一、与えられるのが陰核にはめられたリングの刺激だけだ。
スピーカーから流される人間には認識できない領域の超音波によって、共鳴振動を肉芽に与えるリング。その刺激に嫌でも意識が集中してしまう。
だが、その刺激はじつに微力で、媚薬に狂わされて貪欲になった肉体をとても満足させられるものではない。その事実を噛み締めながら悲しげな呻きとともに、肩を哀しげに震わせているのだ。
そうやって、もう二十四時間以上も放置されている。顔が見えずとも彼女がどんな状態なのが容易に想像できた。
――ゴクリ……
有能な上官であり恋人でもあった綾乃の無惨な様子に、比奈子は生唾を飲み込んで肩を震わせる。
だが、その顔に浮かぶのは悲哀でも哀れみではない。身体をうち震えさせるほどの嗜虐の悦びなのだ。
――愛する者を踏みにじり、好き勝手に凌辱したい、そんな暗い欲望を比奈子は持っていた。
身近になるべく近づいた相手は、同性でもため息をもらすような美貌を持ち主であり、高貴な家柄でもあった。出生にコンプレックスを持つ比奈子を刺激するには十分すぎる相手だった。
もちろん綾乃は血筋など気にはせずに、実力を正当に評価する上官であった。恋人としても対等に扱う申し分ないパートナーだった。それによって、彼女の心の傷は少しずつ癒されていくような気がした。
だから、彼女を罠にはめて、こうして奴隷へと堕とそうと画策したことに罪悪感がないわけでもない。
だが、その僅かに芽生えた良心も、こうして無惨な彼女の姿を前にすると内に秘めた暗い欲望が凌駕してしまう。
親愛を歪んだ愛情へと姿を変えてしまい、興奮を高めるスパイスに変えてしまうのだ。
「あぁぁぁン」
比奈子の心臓は早鐘のように脈打ち、気づけばハァハァと熱く息を吐き出していた。
その様子を横目に、ヴェロニカは綾乃の両腕を吊っていた鎖を外すと、代わりに首輪の金具に繋ぎ止めると、組まれた腕を固定していたの拘束を解いていく。
「さぁ、両手を自由にしてあげたわよ、どうする?」
ヴェロニカの呟きは、耳に押し込まれたイヤフォンによって綾乃に伝えられる。
突然の声にビクッと肩を震わせる彼女は、拘束をとかれた組んでいた両腕を恐るおそると解いていく。
そうして、手のひらが握っては、自由になった事実を確認しているようだった。
(さぁ、どうするの?)
以前の綾乃なら、視界が見えずとも気配でヴェロニカの位置を認識できただろう。
自由になった両手で掴める位置にいる彼女を引き寄せて、あとは人質にすれば反抗の手段もあるだろう。
――だが、綾乃はすぐには動こうとはしなかった。
ゆっくりと前にまわされた手はわずかに震えており、彼女の戸惑いと葛藤がうかがえる。
理性ではヴェロニカへと手を出すべきだと思うのだが、散々と心身に刻まれた恐怖は身体を竦ませてしまうのだ。
それに強力な媚薬による狂おしいほどの疼きにも襲われていた。疲弊した今の彼女では、それをどうにかしたい欲求を跳ねのけられないのだ。
(さぁ、頑張りなさいよッ)
比奈子自身も同様の体験をしてるからこそ、その心の中でおこなわれている葛藤をよく理解できた。
自分には出来なかったことだが、綾乃ならばと心の片隅で期待してしまう。
だが、ヴェロニカの指がコントローラーに触れて、陰核のリングが強い刺激を与えると、危ういバランスで欲望と拮抗していた理性は、脆くも瓦解してしまうのだった。
すでに心身が限界だった彼女の手がゆっくりと下ろされ、漆黒の指先が躊躇しながらもゆっくりと股間に向かってしまう。
「んッ、んふぅぅッ」
愛液が溢れる秘唇に、黒ゴムで覆われた指先が触れただけで熱い鼻息は放たれた。
もう、そうなっては止めることは彼女にはできない。ヌチャリと粘液の中に一本、もう一本と指を挿入されてしまう。
「うぅッ、うふ――ッ」
ようやく満足できる刺激に背筋は震え、黒ゴムで覆われた頭部が仰け反り、歓喜の呻きをあげていた。
すぐに漆黒の右手が肉壺をかきまわしはじめると、左手が乳房を揉み立てる。
最後まで踏み止まっていた理性も、渇望していた肉悦の前には霧散していた。あとは本能の赴くままに指を動かして、欲望に呑まれるしかないのだ。
――フッシューッ……フッシューッ……
唯一の呼吸口である小さな鼻の穴から、荒々しい鼻息が吹き出される。徐々に激しくなる気配からも絶頂が迫っているのがうかがえる。
腰をカクカクと前後に振りながら、全身に震えが走るのだ。それは徐々に大きくなり、間隔も狭くなっていく。
そうして、ついに念願の激しい絶頂へと昇りつめていくのだった。
「むぐ――――ッ!!」
ゴム球を押し込まれた口腔の奥から、ひときわ大きな呻き声が絞り出された。ガニ股のポーズのまま自慰行為を続けていた彩乃は、ついに絶頂へと到達したのだ。
ビクン、ビクンと跳ねさせた全身を大きく仰け反らせた。
そのままの姿勢でいた時間が、到達した絶頂の深さを示していた。
その硬直がとけてグラリと体勢が崩れた。だが、それによって鎖で吊るされた首輪に絞めあげられることになる。
「――んぐぅぅッ!?」
危うく首を吊ることになり、慌てて脚に力を入れて踏みとどまるのだが、絶頂の余韻に両脚はプルプルと震えてしまう。
それでも、座り込みたいところを堪えて、ガニ股を維持するしかない。
「うぅぅ……」
彼女に使用されている媚薬は拷問用に開発された強力なものだ。二、三度と激しく逝ったぐらいでは解消などされない。
それどころか、ぶり返した激しい疼きは前以上に肉体は刺激も求めてくるのだ。
再び、愛液で濡れるゴムの指が挿入されて、ピチャピチャと淫らな水音を響かせはじめる。
その狂ったように刺激をむさぼる姿を、比奈子を食い入るように見つめていた。
目の前で淫らに肉悦に浸る全頭マスクの女が、あの綾乃と同一人物だと信じられない想いなのだ。
これほどまでに綾乃を狂わせたヴェロニカに畏れを感じるとともに、当然の結果だと誇らかに思う自分も比奈子の中にはいた。
「ふふッ、うふふふ……」
様々な感情が渦巻いていた比奈子が突然、肩を震わせはじめる。
その俯いた口元には、いつのまにか邪悪な笑みが浮かんでいた。
「あぁ、なんて淫らで情けない姿なの……折角、反撃のチャンスだったのに、少しでも期待した私がバカだったわ」
自慰行為に没頭する綾乃に、比奈子は侮蔑の視線が投げつける。同時に、愛する者が堕ちていく瞬間に立ち会っていることに、ゾクゾクっと昏い悦びに打ち震えているのだった。
そんな彼女の前にスッと鞭が差し出された。反射的に受け取った肩に触れて、ヴェロニカは「なら、期待を裏切った罰を与えないとね」と耳元に優しく囁いてくるのだ。
その言葉に導かれるように比奈子は自慰に没頭する綾乃の背後にまわる。
同時にヴェロニカは綾乃の両腕を掴むと再び頭の後ろで組ませて拘束して、それも鎖で吊るしてしまう。
「さぁ、鞭を味わわせてあげて」
「はいッ」
高々と掲げられた鞭が綾乃に振り下ろされた。背を打つ乾いた音に続き、綾乃の苦悶の呻きが響き渡る。
ギシギシと鎖を軋ませて吊られた女体が揺れる。それを追うように次の鞭が振り下ろされていった。
――ヒュン、ビシッ……ヒュンッ、パシッ……
「うぐぅぅ……んぐぅぅぅッ」
鞭の音と綾乃の呻き声が交互に響き、柔肌に朱の鞭痕が刻まれていった。
だが、苦悶の呻きには次第に甘い響きが混ざりはじめていた。媚薬に狂わされた肉体は、鞭による苦痛すらも快楽へと変えようとしているのだ。
そうして、さらに時間が経過すると漏れだすのは涕泣きにとって変わり、鞭の鋭い一撃が叩き込まれるたびに吊られた裸体が悩ましくうねっていた。
「んぐぅッ……んふぅぅッ!!」
背中やお尻に幾条もの朱色の鞭痕が無惨にも刻まれていた。その綾乃の股間からは、先ほどよりも多い愛液が太ももを伝わり、床を派手に濡らしていた。
「もぅ、鞭を打たれて感じちゃってるのね。これじゃ、ご褒美になってしまうわ」
一本鞭の柄を使い、俯いた綾乃の顎を引き上げると、比奈子は興奮ぎみに言葉を投げ掛ける。
もちろん耳を塞がれている綾乃には、その言葉は聴こえない。代弁したヴェロニカの言葉がイヤフォンを通して伝えられる。
「あら、ゾクゾクしちゃってるわ、そんなに鞭が気に入ったのかしらね、このマゾ豚ちゃんは」
綾乃の様子に、残酷な笑みを浮かべた比奈子はさらなる一撃を与えようと鞭を振り上げる。
――ピシィィッ
「むぐぅぅぅッ!!」
痛烈な一撃が乳首を直撃した。それには堪らず綾乃が背を反らして悶絶する。
だが、比奈子の手はそれでは止まらない。続けて反対の乳首を打ちつけ、さらに仕上げとばかりに股間へと振り上げるのだ。
「――――――☆△○ッ!!」
拘束された身体が跳ねあがり、声にならない悲鳴があがる。
プルプルと身体を震わせながら、その股間からは透明が勢いよく液体が吹き出された。
「あら、失禁までして、嬉ションかしらね……ホント、無様な姿だわ」
ガックリと頭をたらして気を失った綾乃を前にして、比奈子は侮蔑の視線で見下ろすのだった。
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