淫獣捜査スピンオフ 双極奴隷たちの調教クルージング3
【1】暗躍する者たち
超巨大豪華客船で実施された公開調教ショーは盛況のうちに終わりを迎えた。
ショーの中で催しとしておこなわれた賭けの方も大盛りあがりで、見事に的中させた三人の紳士は多額の配当金とともに副賞である奴隷役であった美女――ナナを一日の間、自由にできる権利を獲得して上機嫌だった。
三人はそれぞれの権利を行使する順番を決める協議の中、権利を共有することに決めたようだ。三人で三日間のナナの保有を主張してきたのだ。
「へぇ、それは面白いね」
賭けの胴元であるブックメーカーをつとめた男――紫堂 一矢(しどう かずや)は、彼らの提案をあっさりと快諾した。
白スーツの似合う知的な容姿の男なのだが、笑顔を浮かべると途端に子供のような無邪気さを漂わせる。
この男が勢力を広げている犯罪組織の幹部だと知る者はまだ多くはない。
ただでさえ欧米の人々に比べてアジア系の人種は年齢よりも若く見られがちなのだ。屈託のない笑みを浮かべる姿にすっかり三人は気を許してしまっているのだった。
(兵器産業の重役に国際手配中のテロリスト、そして某大国の外務大臣とは面白い組み合わせだね)
お互いの素性を無理に探らないのも、脛に傷を持つ者ばかりが集まるこの船でのルールだった。
彼らはお互いの素性を知らず、それぞれから発せられる嗜虐者の強い気配だけで意気投合しているのだ。
某大国はテロ行為を受けて躍起になって相手組織を潰しにかかっている。そして、その両陣営に武器を売りまくっている死の商人の要人。その三人が肩を組んで目の前で喜びあっているのだ。
おもわず苦笑いを浮かべそうになるのを紫堂は必死に我慢していた。
彼らが情報にさとい有能な人物であるのなら、リストに載っている相手の顔を覚えているはずだが、その気配はいまのところ彼らからは見えない。
(わかってて演技しているのなら大したものだが……打ち解けてから自己紹介しだした時は見ものだろうな)
紫堂は腰の低い態度で対応しながら心の内で冷ややかに笑っていた。
すでにシオによる連日の調教によって消耗しきっているナナであるが、その身を清めさせると淫獣たちが待ち構える部屋へと無慈悲にも放り込んでしまう。
三日三晩、男どもは欲望のままに穴という穴に精を注ぎ込み、素晴らしき女体に凌辱の限りを尽くした。
限界をすでに超えていたナナは本気で叫び、赦しを乞い続けて嗜虐者たちを大いに悦ばせた。
四日目の朝、彼らが満足気に立ち去っていった後には人形のように天井を見上げて動かないナナの姿があった。
清掃のために訪れた船主である豪田のメイドたちが、そんな彼女を紫堂の元へと運んでくる。
ソファに座る彼の前にゴロリと転がされるナナ。その瞳は見開かれたまま虚空に向けられ、ピクリとも動こうとはしない。
かろうじて胸が上下していることで生きてることがわかるが、心は完全に壊れてしまっているように見えた。
その姿を流石に同情してくれたのだろう。運び込んでくれたメイドたちは哀れみの目を彼女に向けると、深々と頭を下げて退室していった。
メイドたちもいなくなった個室に、ソファに座る紫堂と生きる屍と化したナナだけが存在する。
紫堂は終始、表情を変えず座っていた。ただ、静かに懐からシガーケースを取り出すと細巻きの葉巻を口に咥える。
――カッシュッ…………シュボッ……
ライターによって点火した葉巻を深々と吸い込み、その煙を吐き出す。すると室内には独特な甘みを感じさせる香りが広がる。
静まりかえる中、そうやって紫堂が葉巻を嗜んでいると変化が現れた。
ピクリッとナナの指先が震えて、曇りガラスのようだった双眼に知性の光が灯りはじめたのだ。
「……うッ……うぅん……」
先ほどまでに死体のように転がっていたナナが、ゆっくりと上体を起こしてきた。
紫堂はそれに驚くこともなく、ただサイドテーブルに置かれたフルートグラスを手にするとシュワシュワと気泡が立ち上るグラスを彼女に手渡す。
「随分と可愛がられたようだな」
まだ、指先にも力が入らない状態であるのに気がつくと、乾いた精液がこびりつく裸体を抱きかかえ、そのまま口移しでグラスの中身を飲ましてやるのだ。
「んッ……んぐ、んん……はぁ……えぇ、生き返りましたわ」
ようやくひと心地がついたのか脱力したように紫堂の腕に身体を預ける。
そんな彼女をそのまま担ぎ上げると、紫堂は歩き出した。
「それにしても、よく私がトリガーに葉巻を設定してたのがわかりましたわね」
シオによる苛烈な調教。それは相手の心を削り落として恐怖と快楽で支配する洗脳術だ。
下手に抗いつづけると精神の崩壊すら危険すらあり得るもので、ナナ自身も最後まで正気を保てる自信がなかった。
そのために、ある程度、自分の心をコントロールできる彼女は心の奥底に自身を沈めることでやり過ごしたのだ。
ただし、その状態を解除するには切っ掛けが必要だった。それを紫堂が愛用している葉巻の香りとしたのだ。
普段から彼の秘書的な立場でそばに控えているため、容易にトリガーに設定しやすかったのもある。それでも、思惑通りに発動しなければナナの理性は回復せずに廃人のままあっただろう。
「いいや、たまたまだ。目覚めなければ窓から海に投げ捨ててたところだ」
冗談のように笑って語ってみせてるが、後半の窓から捨てる件に関してはにナナには本気に感じられた。
紫堂という男にとって人の命は非常に軽いものであるのを知っていた。それには当人の命も含まれており、自らの命をチップに賭け事にでることも厭わないのだ。
勝ち負けよりもその過程を如何に愉しめるかが、この男にとっての重要課題なのだ。
そのことを側にいることでナナは十分すぎるほど理解させられてきていた。
「これでお前が隠していた技能のひとつが明確になったわけだな」
「そ、そうですわね……」
ナナは自身がもつ瞬間記憶などの特殊な技能に関して紫堂をはじめとして組織の誰にも語ってはいなかった。
誰もが成り上がろうと機会をうかがっている裏社会では、自分の手札を気軽にさらすようなことはしない。
紫堂も秘密の一つや二つある方が愉しいと技能はおろか経歴すらろくに追求はしてこないのだ。
それに関しては古参である支配人などは常に渋い顔をしているのだが、得体の知れない人物すら平然と手元に置いている紫堂の方が異常といえるだろう。
彼にとってはそのリスクも日常を愉しむスパイスであり、こうして今回のように少しずつ秘密を暴いていくことを愉しんでいるのだ。
「それはそうと、なぜベッドへ?」
「なぁに、ちゃんと俺のモノであるのか覚えているか確かめようかと思ってな」
ナナが運び込まれたのは寝室だった。クイーンサイズのベッドの上に放り投げられたナナに、すぐさま紫堂が覆いかぶさってくる。
紫堂には気に入った人物を自分の所有物とすることに固執するところがあった。だが、それで独占力が強いとか嫉妬深いというわけでもない、
まるでお気に入りのモノを自慢するかのように気軽に他人に貸し出すことも厭わない。ただし、その後にこうして紫堂自身も味わって、彼の方が優っていると心身に覚えこませてくるのだ。
「あン、いや、今は汚いですから、せめてシャワーを……あぁン」
「俺のために働いたんだ、汚くはないさ……それに報告も聞きたいからな、全てを覚えているのだろう?」
ナナの乳房を揉みたてながら、首筋や肩へと舌を這わせてきていた。それはまるで凌辱してきた男たちの痕跡を塗りつぶそうとしているかのようだった。
そうして愛撫をする一方で、ナナに報告を促すのは彼女を犯していた男たちの様子や言動なのだ。
表には出せないような会談や取引のされる船内では、乗客による映像や音声の記録はかたく禁じられており、それには船主とも親しくなった紫堂も含まれていた。
だが瞬間記憶術によって詳細に物事を覚えることができるナナならば、その代わりが可能なのだ。
特に快楽に沒れている時ほど人は気が緩むもので、そこから有益な情報を得ようと紫堂は考えているようだ。
(私の瞬間記憶術も、すでにバレているようですわね……)
いいように情報収集の駒として使われている状況なのだが、不思議と不快には感じられなかった。
すでにツボをおさえた愛撫によって官能の火は灯されてしまっている。素直に応えなければ、生殺しにあうだけなのもあった。
それを差し引いても、紫堂という男には次に何をやらかすのか楽しみにさせるものがあるのだ。
(認めたくはありませんが、この男とは妙に馬が合うのですわよね)
冷静沈着なクールな男に見えるが紫堂という男の本質はギャンブラーだとナナは見抜いていた。自らの命すらもチップとして、人生を愉しんでいる。
企業の運営に関しても彼自身が経営の才能に恵まれているわけではない。その賭博師としての鋭い嗅覚によって情勢を読み、的確な人材を配置しているに過ぎないのだ。
(この男にすれば、私もゲームを愉しむための駒に過ぎない……)
それがわかっていても、つい肩入れしてしまっているナナであるのだ。
ナナの報告に満足そうに笑みを浮かべた紫堂は、バックから彼女に挿入しながらサイドテーブルに置かれた端末をみるように促す。そこには六名の男女の顔写真が並んでいた。
「あぁぁん、こ、これは……」
「あぁ、この船に忍び込んだネズミがいるらしくてね。変装の名人らしく対応に苦慮しているとのことだからな、ナナの力に頼らせてもらうよ」
以前に撮られたであろう六名の動画を彼女に見せながら、耳元へと指示を囁いてくるのだ。
耳へと吹き付けられる熱い吐息に身悶えしながら、ナナは彼の目的を理解させられる。
「できるんだろう?」
「……は、はい……んッ、んふぅ……できますわ」
「あぁ、いい子だ。ならタップリとご褒美をあげたら、しっかりと働いてもらおうか」
高々と突き出した美尻を抱え込み、紫堂はパンパンと乾いた肉音を響かせると本格的な挿入にはいった。
ナナは弱点を的確についてくる責めによって早くも昇りつめようとしていた。
圧倒的な雄の力で身体だけでなく心まで支配してくる感覚に身体の奥から震えが来るのを感じる。
細く滑らかな指先がシーツを握りしめ、自らも獣の交配のように淫らに腰を振り立てる。
そうして、艶かしい媚泣きを響かせながら一匹の牝を化した彼女は主の求めに応じていくのだった。
翌日になると事態は再び動き出していた。
ナナを抱いた男たちが如何に彼女が素晴らしかったか、そして、ついやり過ぎて壊してしまって残念だと吹聴してまわっていたのだ。
三人の中にはサディストとしても有名な者もおり、その相手をしたナナに同情する者すらいた。同時に、彼女を狙いつつも味わえなかった者たちは大変悔しがるのだった。
だが、その夜に何事もなかったかのように紫堂とともに船内を歩くナナの姿に全員が驚くことになる。
深紅のドレスに身を包み、歩み去っていく彼女の姿をある者は唖然として、ある者は歓喜して見送るのだった。
「くくくッ、見てみろよ、どいつも面白い反応をしているぞ」
「無茶を言わないで下さい。こっちは笑顔を維持して立っているだけでも精一杯ですわよ」
見た目には普段と変わらぬように見えるナナであったが、その身体は満身創痍なのだ。
紫堂が持ち寄った医療器材、特に試作中の人工皮膚を身体の表面に薄く貼り付けることで痣や鞭痕を誤魔化しているのだ。
「その上、散々に追い打ちをしてくれましたわよね」
「くくくッ、いい声で啼いて赦しをこう姿につい熱が入ってしまったからな」
支配者であり嗜虐者である紫堂に対して、ナナは平然と文句を言ってみせる。
ここに規律に厳格な支配人がいれば眉間に血管を浮かべて叱責してくるところだが、紫堂自身は気にもしていない。それどころか、ナナの反応を愉しんですらいるのだった。
「だが、お陰でいい感じだな。男どもがお前欲しさに目を血走らせているぞ」
ナナの素晴らしさを聞かされ、それが味わえないと思わされて他の男たちは羨望と嫉妬をつのらせていた。それが、彼女が元気な姿を見せたことで自らも味わいたいと強い欲望へと変化していた。
横に紫堂がいなければ、すぐにでも彼女を求めて殺到してきそうな勢いなのだ。
「こんなに焚きつけて、どうするつもりなんですの?」
「なぁに、どうせなら愉しく盛り上がらないとな」
子供のような屈託のない笑みを浮かべる紫堂に対して、ナナは大いに不安になっていた。こういう笑みを浮かべるときは、ろくな事がないのを身をもって知っているからだ。
そして、それが間違いでないのはすぐにわかった。
彼が向かった先は、船主である豪田の部屋であった。応対したメイドに案内された彼の私室では、どうやらお愉しみの最中だったらしくガウンを羽織った豪田と足元に転がる全裸の女たちの姿があった。
「こんな格好ですまないねぇ」
「いいえ、急に訪れたのはこちらですから」
予約もなしで会えること自体稀有なことだろう。それだけ紫堂が気に入られているのがわかる。
ソファに腰をかけて向かい合うふたりは、気さくに会話をはじめている姿からもそれは明白だった。
「さて、その様子だと面白い話を持っていてくれたみたいだね」
期待をする目で見つめてくる豪田に紫堂を頷いてみせる。
「えぇ、また催しものをしようかと思います。きっとそちらのお気に召す結果になるかと思いますよ」
そう言うと、ある計画を豪田に語ってみせるのだった。
翌日になって、船主の豪田より船内に新たなイベントの開催告知がだされた。
その内容は、ナナとシオによる奴隷対決という公開イベントであった。敗者は船倉にて、肉便器として乗客の肉玩具になるというのだ。
その告知をみた者をさらに歓喜させたのが、イベントには観客の参加できるという点だった。
盛り上がりをみせる乗客らを、物陰からそっとみていたスーツ姿のナナがいた。
ドレス姿の艶やかな雰囲気とは大きく変わり、伊達メガネをかけた彼女は有能な秘書といった雰囲気のクールな出で立ちであった。
変装という意味も含めているのだろうが、どうにも華があり過ぎてこれはこれで目立ってしまう彼女であった。
「はぁ、やっぱりこうなりましたか……貴女はこれで良いのかしら?」
深々とため息をついたナナは、背後にいる人物へと問いかけると、そこには同じくスーツ姿のシオがいた。
こちらも、背後でまとめた長い白髪がどうしても注目を集めてしまうようだ。
それに慣れているのだろう、徐々に集まる周囲の視線にふたりは動じた様子もない。
「……かまわない……決められたことに、従うだけ……」
「貴女はそう言うと思った。それにしても、優劣をつけるって……このルールをみると、そこに拘りはあまりないみたいね」
「……?」
「あぁ、気にしないで、一応、貴女の確認をしたかっただけだから」
不思議そうに頭を傾げるシオを残りて、ナナはそれだけ告げるとその場を後にしていた。
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