気高き心は砕かれて、欲望の昏き水底へと沈められる・2
【6】気高き心が砕かれるとき
その後も激しい調教は連日で行われ、催淫クリームに悶え狂わされていくうちにクロエの中から徐々に敵愾心は削り取られていった。
すっかり心を折られて牝奴隷としての立場を受け入れて従順になったかのように見えた。
だが、まだ彼女は諦めずに反撃のチャンスをうかがう反抗心を残していた。
牝奴隷として扱われることによる恥辱に耐え忍び、催淫クリームを使われずとも自ら肉棒を求めて、横たわる悪党の上に跨り、淫らに腰を振るのも厭わない。
そうやって、相手の油断を誘い、反撃のチャンスが訪れるのを彼女はジッと待ち望んだのだった。
――そして、ようやくその時が訪れた……
監視の目を盗んで外部との連絡を取ることに成功したのだ。
その頃には、本部長だったマーシーはさらに昇進して署長にまでなっていた。彼の支配力は以前よりも増して、もはや誰が組織の支配下にいるのかもわからない状態だ。
だから、信用できるのは相棒であったビセンテしかいなかった。
彼の方も突然の配置移動になったというクロエの身を案じていて、密かに内偵を進めていた。
そうして、連絡を取り合ったふたりは協力して、ロドリゲスの組織を潰そうと画策するのだった。
彼の賄賂を受け取っている政治家や政府要人などのリストを密かに入手し、それを海外のメディアも使ってぶちまけようと計画し、それは順調に進んでいるかに見えた。
だが、そのふたりの動きは最初からロドリゲスとマーシーには筒抜けになっていた。あえて外部との連絡手段を残すことでクロエの服従度合いをはかっていたのだ。
「さぁ、どう言い訳するつもりだ?」
血塗れの姿で囚われたビセンテの映像を見せつけられて、クロエは今度こそ敗北を受け入れるしかなかった。
ロドリゲスの最後通告は、囚われの彼の命を救うことで絶対服従を誓わされるものだった。
「わ、わかりました……だから、お願いします。彼の命だけは……」
「なら、その覚悟をみさせてもらおうか」
冷徹に言い放ったロドリゲスの命令は、心身ともに彼好みの牝になるための肉体改造を受けさせられることだった。
幽閉されていた別荘の一室。大病院の医療施設にも劣らない手術室がある。
そこへと連れて行かれたクロエは手術台に寝かせられると、マスクをつけられて意識を失った。
――目覚めた彼女は、自らの肉体の変化にすぐに気づいて顔を強張らせた……
元々でも十分な大きさだった乳房が、豊乳手術によってふたまわりも大きくなっていたのだ。
更に乳首も硬く尖ったままで、小指の先ほどにまで肥大化した先端には、冷たい光を放つピアスが貫いていた。
ピアスは乳首だけではなく、同様の処置をされた陰蕾も貫き、秘唇にも列をなしてリングが並んでいた。
そこに南京錠が通されて、何者にも手出しできないように施錠されてしまっているのだった。
「俺を謀ろうとしたんだ、こんなものでは終わらんぞ」
絶望するクロエにさらに極東の地より呼び寄せた伝説の彫師によって、その褐色の柔肌に刺青を彫らせた。
五本爪の東洋龍が右足から全身へと絡みつく構図であった。
古では五本爪は皇帝にしか許されない図案であり、それを身に彫り込んだクロエを側に置くことで自分の権威を知らしめようという意味も兼ねていた。
そして、ギロリと鋭い龍の眼光が彼女の行動を常に見張り、左の乳房に置かれた爪が反逆の意志があらば心臓を切り裂くというメッセージも含まれているものでもあった。
「なんなら妹の四肢を切り落として、ペットとして連れてきてやってもよいんだぞ?」
その眼差しにロドリゲスの本気であると感じて、完全に屈する道しかないことをクロエも悟らされた。
そうして、絶望を忘れるように肉欲に溺れるようになり、身も心の牝奴隷となることを受け入れてしまったのだ。
それから一年が経過し、洋上に浮かぶプライベートクルーザーにクロエの姿はあった。
ソファに座り酒を愉しむロドリゲスの足元に跪き、その股間に顔を埋めている。
その潤んだ瞳は、目の前でそそり立つの肉柱をウットリと見つめ、熱い吐息とともに舌を這わせていく。
その龍が刻まれた褐色の裸体に身につけているのは黒のТパックと奴隷の証である黒革の首輪のみだ。さらに量感の増した乳房をユサユサと揺らすたびに宝石を散りばめられた乳首のリングピアスと、そこに吊るされた十字架がキラキラと輝いてみせる。
ひと目を忍んで訪問してきたマーシー署長は、熱心に口腔奉仕に耽るクロエの姿をチラ見すると報告を続けた。
「ご命令通りに、事故による死亡として処理を完了いたしました。これでもう、その女は書類上は存在しない人間ということになります」
クロエは海難事故にあったと処理をされていた。高波に攫われた彼女の遺体は見つからず、行方不明の末に死亡したと判断されたのだ。これで死者となった彼女をもう探す者はいない。
その事実を告げられても、クロエは剛柱へと熱心に舌を這わすことを止めようともしない。すでに牝奴隷をしてロドリゲスに従属することを誓った彼女には、関係のないことなのだ。
そんな彼女の様子にロドリゲスも満足そうであった。手にしたグラスを傾け、丸く削り出した氷を転がしながら琥珀色の美酒を上手そうに飲み干していく。
その旨そうな様子に思わず喉が鳴りそうになるのを注意しながら、マーシー署長は報告を続けた。
「それから捕らえておいたビセンテの方ですが、ようやく狂ったようで獄中で自殺しているのが発見されました。そちらも処理は完了しております」
約束通りビセンテは救急処置を受けて一命を取り留めていた。
その身は囚人として扱われ、窓もなく暗闇しかない独房へと幽閉され続けていたのだ。
「もちろん我々は手出しはしておりません。三度の食事は一流レストランのシェフによるものを与えておりましたしね」
どんなに美味な食事がだされようとも、誰も来ず、物音もしない暗闇の中でひとりいることに耐えられる人間はいない。
それでも半年以上も耐えてみせたのだから驚嘆するべきことだろう。
「今後はボスの周囲を嗅ぎまわる不届き者がでないよう管理を徹底いたします」
そう告げるとマーシー署長はクルーザーを後にした。
彼の退出にも、相棒の死にも、もはやクロエは反応を示さなかった。
今の彼女の関心があるのは日増しに大きくなっていく腹部――その中に宿る新たな命だけなのだ。
かつてクロエ=ベラスコ=イバラと呼ばれていた女は優しく腹部を撫でると、ロドリゲスが放った白濁の精液を口で受け止める。
そうして、唇を開いてみせると精液にまみれた口腔をさらしてみせるのだ。
「よし、飲んでいいぞッ」
満足した主の許しを得て、それをゴクリと飲み干したクロエは、ウットリと味わいながら優しく淫らな笑顔を浮かべてみせた。
その光景を遠く離れた陸地から望遠レンズを向けるマリオの姿があった。
英国製高級車の助手席から突き出た大砲のように長いレンズは、視界内のものなら克明に撮影することができる。
スーツ姿のマリオは慣れた手付きで機器を操作して洋上に浮かぶクルーザーの様子を密かに撮影していたのだ。
その映像は特殊な回線を伝わり、首都の豪邸にある一室へと届けられていた。
幸せそうに腹部を撫で続けるクロエの姿を忌々しげに見つめる人物――ロドリゲスの妻であるアリシアは、お淑やかな普段の姿からは想像もできない険しい顔つきを浮かべていた。
苛立ちのままに爪を噛み、爪が割れ、血が流れだしても止めようとはしない。
豪華な絨毯にポタポタと赤い染みを広げながら、彼女は冷たい目でジッと画面に映るクロエの姿を見下ろしているのだった。
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