淫獣捜査スピンオフ 女子大生 美里 夏貴の危険な取材旅行

【5】運命を分けたわずかな違い

 夏貴が意識を取り戻した時にはマジックミラーの向こうには人影はなかった。
 再び現れた男たちによって拘束を解かれて椅子から引き起こされた。
 ようやく訪れたチャンスだが、逝き疲れた身体は鉛のように重く、凌辱で疲弊した心では抵抗する気力すらわかないのだった。
 体液で濡れ汚れた身体を男たちによって蒸しタオルで清められていく。その間も夏貴は放心したように無抵抗だった。
 男たちも、その引き締まったボディを前にしてゴクリと唾を飲み込み、ズボンの下で股間を激しく勃起させているのだが、何かに怯えるように彼女には余計なことをしてこようとはしなかった。
 名残惜しそうに素肌の上から白い拘束衣を着させると、胸の下で組まされた両腕が乳房を押し上げるよう拘束していった。
 備えられた幾重ものベルトで上半身をギチギチに締め上げ、背後で南京錠で施錠してしまう。
 だが、それだけ厳重に拘束しても男たちは安心しない。派手に暴れた彼女の空手技を警戒して、足首にも重犯罪人のように鎖で繋がった枷を装着して口枷まで?ませる念の入れようだ。
 そうして虜囚姿とさせられた彼女は両脇から掴まれると、牢屋へと連行された。
 鉄格子がガシャンと閉じられて施錠される。男たちが立ち去っていく気配の中、彼女は再び泥のような眠りへと落ちていったのだった。



 再び、目を覚ましたのは慌しい周囲の気配によってだった。他の牢屋から次々と捕らえられていた女性たが引きずりだされていた。
 後ろ手に拘束された彼女らは首輪同士を鎖で繋がれると虜囚のように船着き場の方に連行されていた。
 木箱を慌ただしく移動させている男たちの会話から、出荷だか取り引きなどの言葉が聞き取れた。
 どうやら海上に停泊している船と闇夜に紛れて品物を取り引きしている様子が辛うじて鉄格子の隙間から覗き見えた。
 知り得た情報をまとめると海外から密輸した武器やら美術品を密輸する代わりに、輸出規制のある精密機器に混じりに捕えていた女たちも奴隷として船に乗せられているらしい。
 彼女らは人知れず海外に連れ出されて異国の地へと売られていたのだ。
 海外の奴隷市場で出された先は送り出したヤクザたちも知らず、彼女らは二度と本国の地を踏むことはないらしい。
 その為、情報を探っていたあの諫早 翠も同じく出荷されたようだが、彼女の場合はさらに悲惨なようだ。
 彼女が売られた大陸の闇商人というのが、女性の四肢を切断して文字通り牝犬として売り出すところなのだ。人としても生きられない生活が秘密を探った末路なのだとせせら笑う連中に寒気を覚えた。
 彼女との差は処女として美浜 治美に気に入られたどうかの一点で、それがなければ夏貴もヒトイヌとなるべく同じく出荷されていたのだ。
 このあと待ち受ける結末を聞かされて泣き叫ぶ翠が自殺防止に口枷を噛まされて拘束された身体を荷物のように運ばれていった。
 最後に彼女に向けられた視線とともに放たれた激しい呻き声は忘れられそうになかった。
 クルーザーが出港してしばらく立つと波音に混じり洋上の輸送船が汽笛をあげたようだった。
 急に静かになった地下でひとり牢屋に残された夏貴は、いつの間にか眠りについていた。


 翌朝になり事態は急変した。
 目が覚めても地下には常に見かけたヤクザたちの姿がなかった。
 代わりに昼頃に船着き場にボートが到着すると、そこから制服姿警察官が次々と降り立って急に騒がしくなったのだ。
 その中のひとりが牢屋の隅でうずくまる夏貴を発見して慌てて誰かを呼んできたのだ。

「もう大丈夫だぞ、夏貴」

 その掛け声に顔をあげれば、そこには見慣れた顔があった。
 渋面な初老の男性に支えられて立つ照屋 陽介の姿があった。
 右脚はギブスで固定されたままで、身体のあちらこちらに包帯が巻かれてはいる。
 呆けたように見上げる夏貴の姿を見下ろして陽介の顔がグシャリと歪むとポロポロと涙を溢しはじめめる。

「よかったよ……無茶ばかりしやがって……」

 夏貴を抱きしめてオイオイと泣く彼につられて、彼女の強張っていた心もほぐれ、すぐに大泣きすることになるのだった。


 夏貴との連絡が取れなくなって陽介はすぐに行動に移っていた。
 知り合いの探偵に彼女の後を追わせるとともに、以前に別件の事件で顔見知りになった兜坂(とさか)警部に事情を説明して協力を仰いだのだった。
 並平警察の不審な動きは前々から問題視されていたようで、密かに内偵をすすめる方向で動いてたのもあり、意外にスムーズに準備は進んだ。
 それでも本来の元気な身体であれば単身で助けに来ていた陽介である。
 準備をすすめる間、ジッと堪え続けるのは彼にが耐え難い時間であったらう。その反動で夏貴の安全を確認できた喜びで涙を流してしまったのだ。

「それでも、なんでこんなに早く……」
「先行してたケンジがいろいろと下調べをしてくれてたお陰だよ、流石は噂に名高い鷹匠探偵事務所さまさまだな」

 飲み仲間である犬咬 ケンジが所属する鷹匠探偵事務所は裏の業界に精通している者なら誰もが知る存在だった。
 裏社会には、そこの女所長に手を出すないう不文律があるぐらいで知らないとモグリ扱いされる始末だという。
 彼によって美浜邸の地下施設や船着き場の存在が突き止められ、突入する誘導までしてくれていたのだ。
 だが、そのことを事前に察知したのか地下どころか屋敷の方ももぬけの殻で、誰一人として逮捕はできなかった。
 だが、美里 夏貴という生き証人と残されていた木箱から密輸の証拠品を押収できたことで捜査を進めることはできそうだった。
 同行していた女性警察官によって拘束衣を脱がされ代わりの衣服と毛布を与えられた夏貴は、ようやく温かい飲み物を手にして落ち着きを取り戻していた。
 そんな彼女の前に松葉杖をついた陽介が歩み寄る。

「助けに来てくれて……ありがとう……」

 もう二度と会えないことも覚悟していただけに、自らも怪我をおしてまで助けにきてくれたことに感動してしまっていた。
 そのためひた隠しにしていた彼への想いが昂ぶってしまい顔をまともに見ることも出来ずにいた。
 それを誤魔化すように両手で抱えるマグカップに視線を落としてお礼をつけるのだった。
 そんな彼女に幼い頃の姿を重ねて陽介は苦笑いを浮かべて、そっと頭を抱える優しく撫でてやる。

「まったく、ジャジャ馬な義妹には、いつも手を焼かされるな、帰ったらお姉ちゃんにもコッテリと絞ってもらうんだな」
「……義妹……か……」
「ん? どうした?」

 陽介の問い掛けに笑顔を浮かべて誤魔化すと、目の前の大きな身体で抱きついた。

「お、おい……」
「ううん、大丈夫……ホント、ごめんね……」
「そ、そうか……大丈夫なら、いいんだが……」

 突然の夏貴の行動に戸惑いながらも、陽介はそっと抱き返してくれた。
 それは事件に巻き込まれた幼馴染みである義妹を労るものだと理解していた。
 それでも溢れる想いを隠すように夏貴は想い人の身体を強く抱きしめるのだった。


 その後、捜査が進みが暴力団である虎王会と地元警察官の癒着があきらかになった。
 数々の違法行為に加担した罪で関係者は次々と逮捕、更迭されていった。
 その一方で、夏貴が見たという洋上の貨物船は、いくら調べてもその存在すら確認できなかった。
 まるで幽霊船のように姿を消し、積み込んだとされる早 翠や他の美女たちの行方は未だに掴めていない。
 そして、その捜査の中に美浜 治美の名が上がることはなく、今も何事もなかったように彼女はモニターの中で美魔女として変わらぬ笑顔を浮かべているのだった。


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